時の化石

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福岡伸一著 『新版 動的平衡』 人間と進化する細菌・ウィルスとの絶望的なイタチゴッコの闘い 

どーも、ShinShaです。

今日は、福岡伸一著『新版 動的平衡』から2回目の記事です。今回は、病気の原因となる細菌、ウィルスに関する情報にスポットをあてて、『新版 動的平衡』の内容をご紹介します。

このところ、ヨーロッパ、アメリカの新型コロナウィルス 感染拡大が止まりません。大変心配な状況です。今日は、福岡さんの本から、感染症、ウイルスについて勉強しましょう。今回は、ちょっと理科系の内容になりますが、大づかみに内容をとらえて頂ければと思います。

しかし、ウィルスについて知れば知るほど、生命の仕組みに驚かされます。しかも、奴らは圧倒的に数が多いときています。この闘いは、ドロ沼にならざるをえません。

著者の紹介

1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ロックフェラー大学およびハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学理工学部教授。分子生物学専攻。専門分野で論文を発表するかたわら一般向け著作・翻訳も手がける。2006年、第1回科学ジャーナリスト賞受賞。著書に、『プリオン説はほんとうか?』(講談社ブルーバックス講談社出版文化賞科学出版賞)、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書2007年サントリー学芸賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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福岡伸一著 『新版 動的平衡小学館新書

おススメのポイント

『コロナ後の世界を語る -現代の知性たちの視線- 』(朝日新書)で、福岡伸一さんが書かれた「ウィルスは本来、利他的な存在である」という内容に大変驚きました。その記事が、あまりに面白かったので、『新版 動的平衡』を読むことにしました。

この本は、近代の生物学が解き明かした驚異的な生命のしくみ「動的平衡」を分かりやすく説明しています。また、最近の生命工学のトピック、ヒトと病原体とのイタチごっこの闘い、気になるウィルスの情報についても、詳しく書かれています。

くわえて、生物学からみたダイエット、健康食品の科学など実用的な知識も得ることができます。この本は、現代人としての知識を勉強するためには最適な本です。分かりやすく書かれていますので、安心して読めますよ。

  • 生命現象とは何か
  • ES細胞、iPS細胞、再生医療に関する基礎知識
  • 病原体(細菌、ウィルス、プリオン)に関する基礎知識
  • ダイエットの科学
  • コラーゲン食品、健康食品の虚しさ

福岡伸一著 『新版 動的平衡』から

ロベルト・コッホが病原体をつきとめた

1876年に、コッホは、炭疽菌炭疽病(もともと牛などの草食動物の病気だが人にも感染)の病原体であることをつきとめました。続いて1882年に結核菌を発見し、ヒトにおいても、細菌が病原体であることを証明しました。コッホは、翌1883年にはコレラ菌を発見。1905年にはノーベル生理学・医学賞を受賞しました。めざましい功績ですね。

コッホが、病原菌が病気の原因を発見する以前では、「悪い空気」や「悪い水」を体内に取り入れたために、病気になると考えられていました。
コッホはベルリン大学で教鞭を取り、彼の門下生は次々と病原体を発見して細菌学で偉大な功績を残しました。

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ロベルト・コッホ 引用: Wikipedia パブリックドメイン画像

種の違い

病原体によって引き起こされる病気はうつります。しかし、むやみやたらにうつるわけではないのです。感染症が、うつるのは基本的に同種の間だけなのです。病原体は種をこえないという原則があり、犬や猫の病気は、通常ヒトにはうつらないのです。これを「種の壁」といいます。

抗生物質の発見

英国人医師フレミングは雑然とした研究室の中で、細菌の研究をしていました。ある日、以前行っていた黄色ブドウ球菌の培養シャレーを見ると、シャーレに混入した青カビの周りは、菌の繁殖がなく透明になっているのを発見しました。

レミングはここでひらめきます。「青カビの中の成分が黄色ブドウ球菌の成長を妨げたのではないか?」ひらめきから、フレミングは1929年に、抗生物質ペニシリン」を発見しました。

ペニシリン以降、いろいろな抗生物質が発見され、それまでは特効薬のなかった病気が次々に克服されました。結核菌を退治するストレプトマイシンは、その代表です。戦前、結核は有効な薬がなく、死に至る病と恐れられていました。昭和30年代に入ると、結核は比較的簡単に治るようになっていきました。

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ペニシリンの発明
"The discovery of Penicillin" by Solis Invicti is licensed under CC BY 2.0

イタチゴッコの始まり

数十年後、ストレプトマイシンが効かない結核が流行をはじめました。また、ペニシリンの効かない黄色ブドウ球菌も現れた。

病原体は進化しています。単細胞生物だから、絶え間なく分裂を繰り返して変化するのです。その中から、たまたま抗生物質に耐性をもった細菌が出現してくるのです。彼らは「数撃ちゃ当たる」戦略で、なんとか抗生物質にやっつけられない子孫を生み出したのです。

これに対抗するため、人間もイソニアジド、セファロスポリンなど、次々に新しい抗生物質を発見し、医療現場に投入しました。しかし、しばらくすると、新しい抗生物質にも効かない細菌が現れてきたのです。

たまたま生まれた耐性菌は、細胞分裂して増殖するだけではないのです。近くにいる最近とDNAのやりとりを始める。つまり、耐性菌は、耐性を持っていない他の菌に、自分が獲得した耐性のあるDNAを分けてやるのです。

こうして、現在では、いくつもの抗生物質に耐性をもってしまった多剤耐性菌など、やっかいな連中がゴロゴロしている。強力な抗生物質メチシリンも、究極の抗生物質バンコマイシンも破られてしまったのです。

そして、「数撃ちゃ当たる」戦略から、やがて「種の壁」を超える連中も出現したのです。

ウィルスの発見

十九世紀後半、ロシア人デミストリ・イワノフスキーは、細菌よりもずっと小さな病原体の存在をつきとめました。彼はタバコモザイク病の病原体を、素焼きの陶器で濾過して、濾過した液の中に病原体がいることを確認した。素焼き陶器にある孔の寸法は0.5 −5マイクロメートルなので、病原体は0.5マイクロメートルより小さい大きさなのです。

1931年にベルリン工科大学で電子顕微鏡は開発され、1938年にシーメンス社が電子顕微鏡を製品化しました。科学者たちは、結晶化したタバコモザイクウィルスの姿を顕微鏡で見ました。また、電子顕微鏡を使い、数々のウィルスを発見しました。

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タバコ・モザイクウィルスの写真 引用: Wikipedia パブリックドメイン画像

発見された新しい病原体である、ウィルスの正体が解明されにつれ、研究者は大きな驚きに包まれました。ウィルスはこれまでの「生物」という概念から、大きく離れたものだった。ウィルスの特徴は以下のとおりです。

  • 細胞質はもたず、タンパク質と核酸からできている
  • DNAかRNAもどちらか一方しかもたない
  • 単独では増殖できない。他の細胞に寄生したときのみ増殖する
  • 寄生した細胞のエネルギーを利用する。自らエネルギーを生み出さない

ウィルスは自分では栄養もとらず、排泄もしない、呼吸もしない。増殖するしくみも持たない。こんなものが生物と呼べるのか。

ウィルスの外側にあるタンパク質は、宿主の細胞表面のタンパク質と鍵と、鍵穴の関係をもっている。これにより、ウィルスは自らの核酸を宿主の細胞内に送り込む。宿主の細胞は、これを自らのDNAだと勘違いして複製してしまう。こうしてウィルスは、宿主の細胞内で増殖して、細胞膜を破って出てくる。そして、新しい細胞に取り付く。ウィルスはこのしくみで、速い速度で増殖するのです。

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細菌、ウィルスの大きさ

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ウィルスの構造

"File:Estructura de un virus.png" by User:Nossedotti (Anderson Brito), modified for Khan Academyis licensed under CC BY-SA 3.0


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ウィルス増殖のしくみ 引用:理化学研究所計算化学研究センター https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/corona/projects/okuno.html

種を超えるウィルス

昨年末に出現した新型コロナウィルス COVID-19は、今世界中で大流行しています。また、数年前から、鳥インフルエンザが世間を騒がせています。

これらの感染症は、もともと鳥やコウモリがかかる風邪なのに、ヒトにもうつるのです。前に書いたように、病原体は種の壁を超えないのが原則です。これを超えるものが新型コロナウィルスやインフルエンザ・ウィルスなのです。

ウィルスの中には、鍵を作り替えることができる「鍵師」のような能力をもったものが現れてきています。彼らは常に鍵をあれこれ変えてみる実験をしている。鍵を変えることで新たな宿主に取り付くことができるようになるのです。

また、ウィルスは、鍵だけでなく、自分たちを包んでいる殻(タンパク質)を少しずつ変えている。殻を変えることによって、ワクチンが効かなくなるようにしているのです。

ワクチンはウィルスの殻に結合して、これを無害化する抗体なので、殻と結合できなくなると、効力を発揮することはできません。同じインフルエンザでも、流行するタイプが異なるとワクチンの効果はありません。

最近になって、ウィルスに対する新しい薬が、いろいろ開発されています。タミフルはウィルスが宿主の細胞から飛び出すところを邪魔する薬品ですが、すでに、これが効かないインフルエンザ・ウィルスも出現しました。ウィルスは増殖するスピードがとても速いので、増殖するたびに少しずつ鍵や外側のからの形を作り変えることができるのです。


本書の感想と関連情報

ここまで、『新版 動的平衡』から、病原体の発見、細菌、ウィルス、抗生物質などの情報をご紹介しました。

今回の記事の中で、一番驚いたところは、「たまたま生まれた耐性菌は、細胞分裂して増殖するだけではないのです。近くにいる最近とDNAのやりとりを始める。つまり、耐性菌は、耐性を持っていない他の菌に、自分が獲得した耐性のあるDNAを分けてやるのです。」というところです。

何と、細菌は獲得したDNA情報を、仲間とシェアするのですね。ようやく獲得した、生き延びるための情報を惜しむことなく、周りと共有しているわけです。独占せず、シェアする。確かにこれは、仲間を存続させる最適な戦略としかいいようがありません。

僕は、この仕組みを知って感動しました。神は、本当によくこんなプログラムを作ったなと。同時にこれは敵わないなと、ため息が出てきます。おそらく、人と獣の種の壁を超える鍵などの重要な情報についても同様に共有されるのでしょうね。

現在、ヒトが感染する病原体は1415種類、このうちの60%が人獣共通感染症です。そして、その97%の病原体が動物からもたらされています。何と6割もあるのか。。。。

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人獣共通感染症 引用:酪農学園大学ホームページ https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3658.html

しばらく前のブログにも、福岡先生の書かれた新型コロナウィルスに関する記事をご紹介しました。ここで、福岡先生は下のように書かれています。

一方、新型コロナウィルス の方も、やがて新型でなくなり、常在的な風邪ウィルスと化してしまうだろう。
宿主の側が免疫を獲得するにつれ、ほどほどに宿主と均衡をとるウィルスだけが選択されて残るからだ。
明日にでも、ワクチンや特効薬が開発され、ウィルスに打ち克ち、祝祭的な開放感に包まれるような未来がくるかといえば、くるわけがないことは明らかである。
長い時間軸をもって、リスクを需要しつつ、ウィルスとの動的平衡を目指すしかない。

私はウィルスをAIやデータサイエンスでアンダーコントロールに置こうとするすべての試みに反対する、無駄な抵抗はやめよと。

引用:『コロナ後の世界を語る -現代の知性たちの視線- 』朝日新書 第1章より

人類が、これまで撲滅できた感染症天然痘しかありません。ウイルスと高等生物との関係性、ウィルスの進化のしくみなどなど、知れば知るほど、この考えに同調するしかなくなってきます。ワクチンなど期待できない、ゆるやかに集団免疫に向かうしかないというのが結論となりますね。

そう考えると、スウエーデンの新型コロナ対策が思い浮かびます。日本の規模に換算すると、1万人/日レベルの感染者を出しているが、2020年11月2日の死亡者はゼロ。うまくやっているな。ヨーロッパの周りの国も羨んでいるでしょうね。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

あとがき

今日は、分子生物学者、福岡伸一著 『新版 動的平衡』から、細菌、ウィルス、抗生物質などに関する情報をご紹介しました。ウィルスが、増殖していくしくみは映画「エイリアン」を想像させますね。ウィルスは、人間の細胞の中でコピーを作らせ、増殖していくのですね。つくづく良くできているなと感心するしかありません。

ペニシリンができてから、まだ90年しか経っていません。この間に、様々な耐性菌が生まれ、薬は効かなくなってきています。細菌やウィルスがもつ、生命の根源的ともいえる、仕組みを知ると驚嘆します。
現在は、ウィルスとの熾烈な争いの真っ最中。これからも、細菌・ウィルスとのイタチゴッコの闘いからは、抜け出すことはできないでしょう。新しいウィルスの発生を防止するために、農業におけるイノベーションが、求められているのかもしれませんね。

今日もこのブログを訪問いただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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