時の化石

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連載記事『日本最古の歴史小説 古事記を読もう』(その2) イザナミの死にまつわるホラー・ストーリー

どーも、ShinShaです。

今回は『古事記を読もう』2回目の記事です。古事記は本当によく作られた物語ですね。読んでいて、いくつも驚きがありました。日本のホラー・ストーリーの原点は、古事記にあるといってもよいでしょう。

ヤマトの島を生み、神を産んだ母なる神イザナミは、出産がもとで命を落とします。その後、話はどのよう展開していくのでしょうか。今回の記事は、結構恐ろしい物語となります。

古事記とは

古事記は、およそ1500年前に書かれた現存する日本最古の歴史書です。日本書紀は、古事記ができてから8年後に、本格的な歴史書を作ろうという動きの中で作られた正史です。中国に習って漢文体で書かれています。一方、古事記は、語り言葉を生かした漢文体で書かれています。

日本書紀は完成後、宮中で役人たちが勉強会のテキストとして使っていたようです。しかし、古事記は、完成後に広く読まれた形跡がなく、何のために作られたか、誰が読んでいたかなど、謎に包まれた部分が多いのです。

お役人が使ってた公文書には、あまり関心がありませんが、古事記はとてもミステリアスで興味を感じますね。

古事記は、一般に現存する日本最古の歴史書であるとされる。その序によれば、7世紀後半の天武朝に天皇の命を受けて、稗田阿礼(ひえだのあれ)が習誦していた歴史を、和銅5年(712年)に太安万侶が編纂し、元明天皇に献上された。上・中・下の3巻。内容は天地開闢 (日本神話)から推古天皇の記事を記述する。

8年後の養老4年(720年)に編纂された『日本書紀』とともに神代から上古までを記した史書として、近現代においては記紀と総称されることもあるが、『古事記』が出雲神話を重視するなど両書の内容には差異もある。

引用:Wikipedia 一部加筆

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真福寺収蔵の『古事記』(国宝。信瑜の弟子の賢瑜による写本)

引用:Wikipedia、Ken'yu (賢瑜) - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11513502による

古事記の面白さ

古事記の魅力は、正史である日本書紀には書いてないヤマトに生まれた王権によって日本列島が統一される以前の物語が書いてあることです。ヤマト王権に、逆らい敗れた者たちの悲劇のドラマが生き生きと書かれているのです。これこそ、大河小説ではないか。

しかも、全てが空想の物語ではなく、関連する遺跡が発見されていたり、縄文文化とも関わりがあるのです。古事記とは何なのか。何が書かれているのか? 大きな興味を感じます。

今回ご紹介する部分をじっくり読みましたが、驚きがありました。完璧なホラー・ストーリー。およそ1500年前に、こんなに面白い物語が書かれているとは思いませんでした。

本ブログで古事記をご紹介する方法について

このブログでは、テキストとして、青空文庫古事記』現代語訳 武田祐吉を使用します。この本は初版が1956年と古いので、副読本として三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』朝日新聞出版を使用します。副読本を使って、現代的な解釈を補ってもらうことにします。

ブログ記事の範囲は、個人的に興味がある、古事記の上巻、神話部分と致します。全文を読むのは、大変な労力となりますので、独断と偏見で、「重要だ」、「面白い」と判断した部分のテキストを引用して、その解釈と感想について記事を書いていくことにします。また、できるだけ、インターネットの特長であるビジュアルな記事としたいと思います。

少しずつ、古事記の勉強を進めていきたいと思います。興味のある方は、ぜひ、一緒にを勉強していきませんか。

古事記を読もう【その2】

火の誕生

次にお生みになつた神の名はトリノイハクスブネの神、この神はまたの名を 天の鳥船といいます。次にオホゲツ姫の神をお生みになり、次にヒノヤギハヤヲの神、またの名をヒノカガ彦の神、またのヒノカグツチの神といいます。この 子をお生みになつたためにイザナミの命(みこと)は御陰が燒かれて御病気になりました。その 嘔吐でできた神の名はカナヤマ彦の神とカナヤマ姫の神、糞でできた神の名はハニヤス彦の神とハニヤス姫の神、小便でできた神の名はミツハノメの神とワクムスビの神です。この神の子はトヨウケ姫の神といいます。かような次第でイザナミの命は火の神をお生みになったために遂にお隱れになりました。

次に、イザナミは、トリノイハクスブネの神、オホゲツ姫を産み、その後に火の神ヒノヤギハヤヲを産んで、火傷をして病気になってしまいます。病気でふせって、嘔吐したものや、大小便から神が生まれました。そして、母なる神イザナミは、亡くなってしまいます。

新しく生まれた神は、カナヤマ彦(金山毘古)とカナヤマ姫は鉄器を、ハニヤス彦の神とハニヤス姫は土器を象徴しています。火を手に入れることで、文明が大きく発達していくのです。

古事記では、母なる神を傷つけ殺してしまう大きな犠牲をはらって、人々が火という大きな力を手に入れたのです。

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flame
"flame" by Muffet is licensed under CC BY 2.0

イザナギは悲しみに暮れて涙を流した。イザナミの亡骸(なきがら)を出雲の国と伯伎(ははき)の国(島根県鳥取県)との境にある比婆の山に葬りました。

イザナギは怒り狂い、妻を殺した火の神ヒノヤギハヤヲを剣で斬り殺してしまう。しかし、火は斬れば斬るほど分裂して増え、流した血、死体から新しい神が生まれた。その神はイハサクの神からクラミツハの神まで合わせて八神、マサカヤマツミの神からトヤマツミの神まで合わせて八神であり、下記の系図の右下部分に書かれています。

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イザナキ・イザナミが生んだ神
引用:Michey.M - 投稿者自身による作品, CC 表示 2.5,https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/27/Creation_myths_of_Japan_3.svg による

黄泉(よみ)の国

イザナギの命はお隱れになつた女神にもう一度会いたいと思われて、 後を追つて黄泉の国に行かれました。
そこで女神が御殿の組んである戸から出てお出迎えになつた時に、イザナギの命は、「最愛のわたしの妻よ、あなたと共に作つた国はまだ作り終らないから還つていらつしやい」と仰せられました。
しかるにイザナミの命がお答えになるには、「それは殘念なことを致しました。早くいらつしやらないのでわたくしは 黄泉の国の食物を食べてしまいました。しかしあなた樣がわざわざおいで下さつたのですから、何とかして還りたいと思います。 黄泉の国の神樣に相談をして參りましよう。その間わたくしを御覽になつてはいけません」とお答えになつて、 御殿のうちにお入りになりましたが、なかなか出ておいでになりません。
あまり待ち遠だつたので左の耳のあたりにつかねた髮に 刺していた清らかな櫛の太い齒を一本 闕いて一 本 火を燭して入つて御覽になると蛆が湧いてごろごろと鳴つており、頭には大きな雷が、胸には火の雷が、腹には黒い雷が、陰にはさかんな雷が、左の手には若い雷が、右の手には土の雷が、左の足には鳴る雷が、右の足にはねている雷がいて、合わせて十種の雷が出現していました。

黄泉の国とは、死者の世界のことです。イザナギは亡くなった妻(妹)にもう一度会いたいと思って、後を追って黄泉の国に行きます。

黄泉の世界にある御殿の戸口で二人は話をします。イザナギは、イザナミに「まだ国を作らなければならないから、帰っていらっしゃい」と話します。

イザナミは「くやしい。あなたが早く来なかったから、黄泉の食べ物を食べてしまいました。でも、あなたがせっかく来てくれたので、何とか帰りたい。ここの神様に相談して参ります。その間、私の姿は見ないで下さい。」と答えます。

黄泉の世界のカマドで煮炊きした料理を食べてしまうと、二度と元の世界に戻れなくなるのです。

待てども待てども、戻ってこない。イザナギは意を決して、火を灯して中に入ると、そこには蛆虫が湧いてざわざわと動き回り、頭、胸、腹、陰、両手、両足に得体の知れないものが取り付いたイザナミの姿があった。

雷(イカズチ)とは、威力をもつ恐ろしいもののを意味します。この部分は腐乱死体を連想させます。恐ろしい物語です。「私の姿を見ないで」→「見たなぁ」という日本伝統のホラーの原形は、古事記だったのですね。

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MEDUSA

"MEDUSA" by suRANTo dwi saputra is marked with CC0 1.0

逃竄譚(とうざんたん)

そこでイザナギの命が驚いて逃げてお還りになる時にイザナミの命は「わたしに辱をお見せになつた」と言つて黄泉の國の魔女を遣つて追わせました。

よつてイザナギの命が御髮につけていた黒い木の蔓の輪を取つてお投げになつたので野葡萄が生えてなりました。

それを取つてたべている間に逃げておいでになるのをまた追いかけましたから、今度は右の耳の邊につかねた髮に插しておいでになつた 清らかな櫛の齒を闕いてお投げになると 筍 が生えました。

それを拔いてたべている間にお逃げになりました。後にはあの女神の身體中に生じた雷の神たちに澤山の黄泉の國の魔軍を副えて追わしめました。

そこでさげておいでになる長い劒を拔いて後の方に振りながら逃げておいでになるのを、なお追つて、黄泉比良坂の坂本まで來た時に、その坂本にあつた桃の実を三つとつてお撃ちになつたから皆逃げて行きました。

そこでイザナギの命はその桃の実に、「お前がわたしを助けたように、この葦原の中の国に生活している多くの人間たちが苦しい目にあつて苦しむ時に助けてくれ」と仰せになつてオホカムヅミの命という名を下さいました。

最後には 女神イザナミの命が御自身で追つておいでになつたので、大きな巖石をその黄泉比良坂(よもつひらさか)に塞(ふさ)いでその石を中に置いて兩方で 向い合つて離別の言葉を交した時に、イザナミの命が仰せられるには、「あなたがこんなことをなされるなら、わたしはあなたの国の人間を一日に千人も殺してしまいます」といわれました。

そこでイザナギの命は「あなたがそうなされるなら、わたしは一日に千五百も産屋を立てて見せる」と仰せられました。こういう次第で一日にかならず千人死に、一日にかならず千五百人生まれるのです。

かくしてそのイザナミの命を黄泉津大神と申します。またその追いかけたので、道及きの大神とも申すということです。その黄泉の坂に塞がつている巖石は塞いでおいでになる黄泉の入口の大神と申します。

その黄泉比良坂というのは、今の出雲の国のイブヤ坂という坂です。

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DARK ESCAPE
Photo By Susanne Nilsson under CC BY-SA 2.0

逃竄譚(とうざんたん)とは、鬼ごっこのこと。恐怖を盛り上げる演出の手法として、現在もよく用いられます。このストーリーも古事記が原型です。

イザナミは驚いて逃げようとします。イザナミは「私に恥をかかせたな」と怒り、黄泉の国の魔女ヨモツシコメ(黄泉醜女)に命じてイザナギを追わせます。

イザナギが被っていた冠を投げると、そこからブドウが伸びていきました。ヨモツシコメが、それを食べているすきにさらに逃げます。次に髪の右側にさしていたクシを投げると、そこからタケノコが生えました。ヨモツシコメが、タケノコを食べているすきに逃げます。イザナミは怒って、体に取り付いた恐ろしい者たちに命じて、黄泉の国の魔軍を使って追わせました。

イザナギは剣を抜いて、後ろを斬りはらいつつ必死に逃げました。そして、ようやく黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本に着いて、そこにあった桃の実を投げます。そうして、桃の実の力で魔軍を追い払います。

桃の実には、大昔から呪力があると信じられており、卑弥呼の遺跡といわれる奈良県桜井市の纒向(まきむく)遺跡から大量の桃の種が発見されています。

最後にイザナミが追いかけてきたので、イザナギは千人がかりでやっと動くような大岩を黄泉比良坂に置いて、道をふさぎます。岩をはさんで二人は話をします。入り口をふさいだのは、千引の岩(ちびきのいわ)と呼ばれています。

イザナナミは「あなたがこんな事をするなら、あなたの国の人間を毎日、千人取り殺してやる。」と言う。イザナギは「あなたがそういうならば、毎日千五百人の産屋を立ててみせる」と返事します。

イザナミは、別名 黄泉津大神(よもつおおかみ)と呼ばれるようになった。黄泉の国の恐ろしい神になったのです。

黄泉比良坂(よもつひらさか)は、松江市東出雲町にある揖屋神社付近にあったとされています。この近くに黄泉比良坂の伝承地がありますが、これは後世作られたものです。いずれにしても、イザナギの死は、出雲の国に関係があるのは間違いがなさそうです。

うむ、なかなか怖い話だったな。1500年前に、こんな優れたホラー・ストーリーが書かれていたとは、見事というしかないですね。

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松江市にある揖屋神社神社 この近くに黄泉比良坂があったとされる

Yasuhisa, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons

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黄泉比良坂伝承地

"File:Yomotsu Hirasaka.JPG" by ChiefHira is licensed under CC BY-SA 3.0

読み解き古事記 神話篇 (朝日新書)

読み解き古事記 神話篇 (朝日新書)

あとがき

今回は、連載シリーズ 『日本最古の歴史小説 古事記を読もう』の第2回の記事でした。今回のお話、とても怖いホラーストーリーでしたね。この物語はかなり有名で、ネットを調べるとマンガ、イラストに書いているような人も多くいらっしゃいます。
この物語には大きな魅力があります。GOTO使って松江、出雲に良好に行きたくなりましたね。

4,000〜5,000年前の縄文時代の「釣り手式土器」のデザインなどから、イザナミの物語は、縄文文化に関係があると考える学説もあるそうです。イザナミの物語が縄文時代からあった。古代史というのは、ロマンを感じさせますね。

今回も、もう少し先まで書く予定でしたが疲れてしまいました。次回は、古事記のヒーローであるスサノヲとアマテラスが登用します。乞うご期待! 

なかなか先に進まなくて困った。しかし話は面白いしなぁ。。。次回までに少し時間を頂いて、今後のプランも併せて検討したいと思います。

この連載、不定期で続けていきたいと考えています。需要を感じられなけば記事は書けませんので、興味を感じてくれた方は、ぜひ連載記事へのアクセスをお願いします。そして、励ましのブックマークを頂ければ、さらにうれしいです。

そうそう、前回、神様が多すぎて名前が覚えられない!という感想を頂きました。覚えなくても大丈です。重要な神様はまた出てきます。僕もぜんぜん記憶にありません(笑)。

今日もこのブログを訪問いただき、ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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