どーも、ShinShaです。
今回は連載記事「古事記を読もう」第5回記事です。二度目の追放を受けたスサノヲは、高天の原から追われて出雲へ。今回はいよいよ、ヤマタノヲロチ退治の物語です。
舞台は天から地上へ。第2幕のスタートです。古事記では、ここから面白い物語が展開していきます。これからが楽しみです。
今回も記事が長くなってしまいました(涙)。過去に連載記事を読んだことがある人は1章、2章の毎回掲載部分を飛ばしても大丈夫です。また、テキスト引用部分は、軽く流して読んでもらえば良いかなと思います。
古事記の面白さ
古事記は、およそ1500年前に書かれた現存する日本最古の歴史書です。語り言葉を生かした漢文体で書かれています。日本書紀は、古事記ができてから8年後に、本格的な歴史書を作ろうという動きの中で作られた正史です。中国に習って漢文体で書かれています。
古事記の魅力は、正史である日本書紀には書いてないヤマトに生まれた王権によって日本列島が統一される以前の物語が書いてあることです。ヤマト王権に、逆らい敗れた者たちの悲劇のドラマが生き生きと書かれているのです。これこそ、大河小説ではないか。
しかも、全てが空想の物語ではなく、関連する遺跡が発見されていたり、縄文文化とも関わりがあるのです。古事記とは何なのか。何が書かれているのか? 大きな興味を感じます。
本ブログで古事記をご紹介する方法について
このブログでは、テキストとして、青空文庫『古事記』現代語訳 武田祐吉を使用します。この本は初版が1956年と古いので、副読本として三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』朝日新聞出版を使用します。副読本を使って、現代的な解釈を補ってもらうことにします。
ブログ記事の範囲は、個人的に興味がある、古事記の上巻、神話部分と致します。全文を読むのは、大変な労力となりますので、独断と偏見で、「重要だ」、「面白い」と判断した部分のテキストを引用して、その解釈と感想について記事を書いていくことにします。また、できるだけ、インターネットの特長であるビジュアルな記事としたいと思います。
少しずつ、古事記の勉強を進めていきたいと思います。興味のある方は、ぜひ、一緒にを勉強していきませんか。
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古事記を読もう【その5】
穀物の種
[テキスト]
スサノヲの命(みこと)は、かようにして天の世界から追われて、下界へ下つておいでになり、まず食物をオホゲツ姫の神にお求めになりました。
そこでオホゲツ姫が鼻や口また尻 から色々の御馳走を出して色々お料理をしてさし上げました。
この時にスサノヲの命はそのしわざをのぞいて見て きたないことをして食べさせるとお思いになつて、そのオホゲツ姫の神を殺してしまいました。
殺された神の身体に色々の物ができました。頭に蚕(かいこ)ができ、二つの目に稲種ができ、二つの耳にアワができ、鼻にアズキができ、股の間 にムギができ、尻にマメが出來ました。カムムスビの命が、これをお取りになつて種となさいました。
二度目の追放を受けたスサノヲはさまよい、腹が減ったのでオホゲツ姫(大気都比売)に食べ物を求める。
スサノヲがどこでオホゲツ姫に会ったかは諸説あります。オホゲツが穀物の神だから阿波(粟)国という説、新羅国(古代朝鮮半島の東部)、または根源の世界。
オホゲツ姫は自分の鼻と口と尻から、いろいろな御馳走を取り出し、それを調理し盛りつけてスサノヲに差し上げました。その様子をのぞいて見ていたスサノオは、汚い方法で料理を出す女神だと思って殺してしまいます。
いやあ、一瞬想像してしまった(笑)。こんなの見たら、そりゃあ怒るわな。
殺されたオホゲツ姫の頭から蚕が、両目から稲が、両耳から粟が、鼻から小豆が、陰部から麦が、尻から大豆が生じました。天の神であるカミムスビ(神産巣日)が来て、スサノオに種を取らせた。 カムムスヒ神(神産巣日神)は(その1)の最初に出てくる神です。古事記では何か困ったことが起きると出てきます。
この物語は、地上界に穀物がもたらされた起源を書いたものだといわれています。また、スサノヲが縄文の女神オホゲツ姫を殺すことは、縄文から弥生への変化を暗示したものだともいわれる。
殺された女神の身体から食物が生じるという話は、インドネシア、メラネシア、ポリネシアからアメリカ大陸にかけての広い地域に分布しています。これは不思議ですね。
"Grains on Mykonos" by sidewalk flying is licensed under CC BY 2.0
ヲロチ退治
[テキスト]
かくてスサノヲの命は追い払われて出雲の国の肥の河上、トリカミという所にお下りになりました。この時に箸がその河から流れて來ました。
それで河上に人が住んでい るとお思いになつて尋ねて上つておいでになりますと、老翁と老女と二人があつて少女を中において泣いております。
そこで「あなたは 誰ですか」とお尋ねになつたので、その老翁が、「わたくしはこの国の神のオホヤマツミの神の子でアシナヅチといい、妻の名はテナヅチ、娘の名はクシナダ姫といいます」と申しました。
また「あなたの泣くわけはどういう次第ですか」とお尋ねになつたので「わたくしの女はもとは八人ありました。それをコシの八俣の大蛇が毎年來て食べてしまいます。今またそれの來る時期ですから泣いています」と申しました。
「その八俣の大蛇というのはどういう形をしているのですか」とお尋ねになつたところ、「その 目は丹波酸漿(ほおずき)のように眞赤で、身体一つに頭が八つ、尾が八つあります。またその身体には苔だの 檜 ・杉の類が生え、その長さは谷 八つ峰 八つをわたつて、その腹を見ればいつも血が垂れて 爛(ただ)れておりす」と申しました。
そこでスサノヲの命がその老翁に「これがあなたの 女さんならばわたしにくれませんか」と仰せになつたところ、「恐れ多いことですけれども、あなた はどなた樣ですか」と申しましたから、「わたしは天照らす大神の弟です。今天から下つて來た所です」とお答えになりました。
スサノヲは出雲の肥の河上、鳥髪(トリカミ)という所に降りた。副読本ではこの場所を、出雲風土記、前後の文脈から島根県東部を流れる斐伊川河口付近ではないかと書いています。GoogleMapで調べてみると、この川は穴道湖に流れこんでいるのですね。
箸が流れてきたから、川上に歩いていくと年老いた夫婦が少女を中において泣いている。泣いている理由を訊くと八人の娘を、毎年ヤマタノヲロチがきて食べてしまうという。
スサノヲは、自分はアマテラスの弟だから娘さんをくれと頼み、夫婦はこれを認めた。争って追放されたのに、都合のいいやつですね。
老夫婦の名前は、漢字で書くと足名椎(アシナヅチ)と、手名椎(テナヅチ)となり、足と手を使う労働の神を意味します。娘の名は櫛名田比売(クシナダ姫)で、稲田の女神を意味しています。
ヤマタノヲロチは身体が一つに、頭が八つ、尾が八ある得体の知れない力をもつ大蛇だという。目はホオズキのように真っ赤、身体にはヒノキやスギ、コケが生え、大きさは谷が八つ、峰が八つ、腹は血がたれタダれている。
副読本には、ヲロチという呼び名は、「尻尾(しっぽ)の霊力」の意味だと解説されています。
これは何を意味するか。直接的な表現からは洪水で暴れる川のイメージですね。副読本もこの考えと同じことが書いてありました。また、出雲地方のタタラ製鉄の溶けて流れる鉄のイメージをヤマタノオロチと結びつける説もあります。
"Flash Floods in Utah" by U.S. Geological Survey is marked with CC PDM 1.0
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[テキスト]
よつてスサノヲの命はその娘子を櫛の形に變えて御髮にお刺しになり、そのアシナヅチ・テナヅチの神 に仰せられるには、「あなたたち、ごく濃い酒を釀し、また垣を廻して八つの入口を作り、入口毎に八つの物を置く台を作り、その台毎に酒の桶(おけ)をおいて、その濃い酒 をいつぱい入れて待つていらつしやい」と仰せになりました。
そこで仰せられたままにかように設けて待つている時に、かの八俣の大蛇がほんとうに言つた通りに来ました。そこで酒桶毎にそれぞれ首を乘り入れて酒を飮みました。そうして醉つぱらつてとどまり臥して寢てしまいました。
そこでスサノヲの命がお佩(は)きになつていた長い剣を 拔いてその大蛇をお斬り散らしになつたので、肥の河が血になつて流れました。
その大蛇の中の尾をお割きになる時に剣の刃がすこし欠けました。
これは怪しいとお思いに なつて剣の先で割いて御覽になりましたら、鋭い大刀がありました。この大刀をお取りになつて不思議のものだとお思いになつて天照らす大神に獻上なさいました。これが 草薙の劒でございます。
かくしてスサノヲの命は、宮を造るべき處を出雲の国でお求めになりました。
スサノヲは娘を櫛の形に変えて、自分の髪に刺した。アシナヅチ・テナヅチには八つの仕切りを作って、その中に濃い酒を満たした桶をおきないさと命ずる。
アシナヅチ・テナヅチの話のとおり、やがてヤマタノヲロチがやってきた。ヲロチは八つの桶で酒を飲み、酔っ払って寝てしまう。見事にスサノヲの戦略の勝利ですが、あっけないなあ。どこかで、ひと暴れして欲しかった。
スサノヲは長い剣でヲロチを切り裂く。その血で肥の河は赤く染まった。尾を切り裂く途中で、剣が欠けてしまったので、中を見ると鋭い太刀が入っていた。スサノヲはアマテラスにこの剣を献上した。これが、天皇家の三種の神器の一つ、草彅(くさなぎ)の剣です。
三種の神器とはこの剣と、アマテラスを岩戸から出すときに作られた鏡と勾玉、正式な呼び名は八咫鏡(やたのかがみ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)です。
草彅の剣は名古屋市の熱田神宮に安置されていますが、非公開で写真が入手できません。本物は平家滅亡時に、幼い安徳天皇とともに壇ノ浦に沈んだという話もあります。しかし、これも神話時代からきた話なので、議論自体意味がないのかもしれません。
By Toyohara Chikanobu (豊原周延) - Artelino.com here, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1355187
三神器.jpg: Unclemcderivative work: PawełMM (talk) - 三神器.jpg, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10682498による
[テキスト]
かくしてスサノヲの命は、宮を造るべき處を出雲の国でお求めになりました。そうしてスガの 處においでになつて仰せられるには、「わたしは此處に來て心もちが清々しい」と仰せになつて、其處(そこ)に宮殿をお造りになりました。それで其處をば今でもスガというのです。この神が、はじめスガの宮をお造りになつた時に、其處から雲が立ちの ぼりました。依つて歌をお詠みになりました。
やくも立ついづもやへがき 妻ごみにやへがきつくる そのやへがきを
(八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を)
そこでかのアシナヅチ・テナヅチの神をお 呼びになつて、「あなたはわたしの宮の長となれ」と仰せになり、名をイナダの宮主スガノヤツミミの神とおつけになりました。
そこでそのクシナダ姫と婚姻してお生みになつた神樣は、ヤシマジヌミの神です。またオホヤマツミの神の女のカムオホチ姫と結婚をして生んだ子は、オホトシの神、次にウカノミタマです。
兄のヤシマジヌミの神はオホヤマツミの神の女の木の花散る姫と結婚して生んだ子は、フハノモヂクヌスヌの神です。この神がオカミの神の女のヒカハ姫と結婚して生んだ子がフカブチノミヅヤレハナの神です。
この神がアメノツドヘチネの神と結婚して生んだ子がオミヅヌの神です。この神がフノヅノの神の女のフテミミの神と結婚して生んだ子がアメノフユギヌの神です。この神がサシクニオホの神の女のサシクニワカ姫と結婚して生んだ子が 大国主(おおくにぬし)の神です。
この大国主の神はまたの名 をオホアナムチの神ともアシハラシコヲの神ともヤチホコの神ともウツシクニダマの神とも申します。合わせてお名前が五つありました。
スサノヲは出雲国のある場所で、心がすがすがしくなり、そこに宮殿を構えた。これは現在の出雲市大東町須賀だとされている。宮殿を作ったときに雲が立ち上ったので歌を詠んだ。八重ばっかり出てきて、意味が分かりませんね。
これが日本最古の和歌とされています。この歌が、確か小泉八雲(ラフカディオハーン)の名前の由来になったのですね。
そして、アシナヅチ・テナヅチの神を宮主として、クシナダ姫と子をもうけた。系図を下に載せます。スサノヲから七代目に大国主が誕生します。
しかし、この系図をじっくり見ると、スサノヲとクシナダヒメノミの子供は、クシナダ姫の妹と子供を作っている。スサノヲはクシナダ姫の姉とも子供を作っています。なんという乱れた関係(汗)。。。。。さらに、もっとすごいやつが。大国主の妻は何?どうなってるの?
nnh - selfmade by MS-Paint, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=631071による
三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』は、古事記研究の第一人者の書いた本です。これまでの研究成果を踏まえて分かりやすく、現代的に古事記のすべてを解説してくれます。オススメの素晴らしい本です。ぜひ。
- 作者:三浦 佑之
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あとがき
今回の記事、穀物の栽培の開始から、ヤマタノヲロチ退治まで盛り上がりましたね。今回は書いていてとても楽しかった。
この後、スサノヲは出雲で平和に暮らしたかというと、やはりそんなことはなかったようです。根の堅州の国(根源の国)の主として、スセリビメと暮らしたそうです。泣きわめいていた理由だった国に行ったのですね。
そういえば、どこかの国の総理大臣はちっともすがすがしくない。だから、自己紹介が「がーすー」か(笑)。
お後がよろしいようで。
今日もこのブログを訪問いただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
ShinSha
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