どーも、ShinShaです。
今回は『古事記を読もう』第14回、地上に降りたニニギの結婚の物語です。
桜のように美しいコノハナサクヤヒメと岩のようにたくましいイワナガヒメ。
山の神の呪い、コノハナサクヤヒメの火の中の出産。
変わらず、古事記の神話は面白いですね。
古事記の面白さ
古事記は、およそ1500年前に書かれた現存する日本最古の歴史書です。
語り言葉を生かした漢文体で書かれています。
日本書紀は、古事記ができてから8年後に、本格的な歴史書を作ろうという動きの中で作られた正史です。
中国に習って漢文体で書かれています。
古事記の魅力は、正史である日本書紀には書いてないヤマトに生まれた王権によって日本列島が統一される以前の物語が書いてあることです。
ヤマト王権に、逆らい敗れた者たちの悲劇のドラマが生き生きと書かれているのです。
これこそ、大河小説ではないか。
しかも、全てが空想の物語ではなく、関連する遺跡が発見されていたり、縄文文化とも関わりがあるのです。
古事記とは何なのか。何が書かれているのか? 大きな興味を感じます。
古事記を読む(その14)
コノハナサクヤヒメとイワナガヒメ
[テキスト]
さてヒコホノニニギの命は、カササの御埼で美しいお嬢子にお逢いになつて、「どなたの女子ですか」とお尋ねになりました。
そこで「わたくしはオホヤマツミの神の女の木の花の咲くや姫です」と申しました。
また「兄弟がありますか」とお尋ねになつたところ、「姉に石長姫があります」と申し上げました。よつて仰せられるには、「あなたと結婚をしたいと思うが、どうですか」と仰せられますと、「わたくしは何とも申し上げられません。
父のオホヤマツミの神が申し上げるでしよう」と申しました。
よつてその父オホヤマツミの神にお求めになると、非常に喜んで姉の石長姫を副えて、沢山の獻上物を持たせて 奉りました。
ところがその姉は大変醜(みにく)かったので恐れて返し送つて、妹の木の花の咲くや姫だけを留めて一夜お寢みになりました。
しかるにオホヤマツミの神は石長姫をお返し遊ばされたのによつて、非常に恥じて申し送られたことは、「わたくしが二人を竝べて奉つたわけは、石長姫をお使いになると、天の神の御子の御寿命は雪が降り風が吹いても永久に石のように堅実においでになるであろう。また木の花の咲くや姫をお使いになれば、木の花の榮えるように榮えるであろうと誓言をたてて奉りました。しかるに今石長姫を返して木の花の咲くや姫を一人お留めなすつ たから、天の神の御子の御壽命は、木の花のようにもろくおいでなさることでしよう」と申しました。こういう次第で、今日に至るまで天皇の御寿命が長くないのです。
ヒコホニニギは笠沙の岬に出かけ、美しい女性と出会いました。
そこで、「あなたは誰の娘ごですか」と問うと、「私はオホヤマツミ(大山津見神)の神のコノハナサクヤヒメ(木花之佐久夜比売)です」と答えました。
さらに「あなたには兄弟はいますか」と問うと、「姉、イワナガヒメ(石長比売)がおります」と答えました。
結婚の申し込みをすると、「私はお答えすることができません。父、オホヤマツミが申し上げるでしょう。」と申し上げました。
使いを遣わして、父オホヤマツミの神に結婚の申し込みをすると、非常に喜んで姉のイワナガヒメを副(そ)えて、山盛りの献上品を持たせて奉りました。
ところが、姉は大変みにくかったので、ニニギはひと目見るなり恐れて送り返し、コノハナサクヤヒメだけを留めて一夜交わったのです。
コノハナサクヤヒメは絶世の美女だったのですね。
神話とはいえ、姉と妹セットで嫁に出すというのはひどいですね。
しかし、そこには意味があったのです。
また、ひと目見るなり恐れてイワナガヒメを返したニニギはいけませんね。
副読本では、コノハナは桜でなければならないという説を支持しています。
サクラという名前は「サク(咲く)ラ(接尾辞)」、咲くものの象徴です。
桜をめぐる死への連想は古くから日本にあったそうです。
ちなみに、梅は外来の観賞植物で、8世紀以降に日本では愛されるようなりました。
この物語の関係性でも桜の花がふさわしいですね。
"Sakura" by OiMax is licensed under CC BY 2.0
ホヤマツミの神はイワナガヒメを返されたことをたいそう恥じました。
申し送って言うことには、「わたくしが二人を並べて差し上げたわけは、イワナガヒメをお使いになると、天の神の御子の寿命は、雪が降り風が吹いても永久に石のように堅実においでになるであろう。またコノハナサクヤヒメをお使いになれば、木の花のように栄えるでしょうと、祈りを込めて娘を差し上げました。」
「しかし、イワナガヒメを返してコノハナサクヤヒメを一人お留めなさったから、天の神の御子の寿命は、木の花のようにもろくなるでしょう」と申しました。
こういう次第で、今日に至るまで天皇の寿命は長くないのです。
天の神であるニニギが山の神オホヤマツミの娘と結婚し子を生み、その子がさらに海の神の娘と結婚してその子孫が天皇となっていく展開となっていきます。
桜のように美しい女性と岩のようにたくましい女性。
オホヤマツミは大地のすべての力をニニギに献上したのですが、永久の命の象徴であるイワナガヒメを受け入れなかったから、天皇の寿命は短くなってしまいました。
この神話はバナナタイプと呼ばれ、インドネシアなどに類型があることが知られています。
インドネシアなどでは、岩石と食べ物(バナナ)の対比のストリーとなっています。
この物語は南方から日本に伝わったといわれています。
副読本では岩石と木の花の対比により、美醜を抱き込んでいるのが、古事記の目新しいところだとしています。
天の神には寿命がなく不死です。
古事記では、オホヤマツミの呪詛(じゅそ)により、天皇に寿命ができたがことが示されました。
これにより、彼らも地上の存在になることができたのです。
副読本では、古事記のこの記述は、最初の天皇の人間宣言であると説明しています。
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火中出産
[テキスト]
かくして後に木の花の咲くや姫が參り出て申すには、「わたくしは姙娠しまして、今子を産む時になりました。これは天の神の御子ですから、勝手にお生み申し 上ぐべきではございません。そこでこの事を申し上げます」と申されました。
そこで命が仰せになつて言うには、「咲くや姫よ、一夜ではらんだと言うが、国の神の子ではないか」と仰せになつたから、「わたくしのはらんでいる子が国の神の子ならば、生む時に無事でないでしよう。もし天の神の御子でありましたら、無事でありましよう」と申して、戸 口の無い大きな家を作つてその家の中におはいりになり、粘 土ですつかり塗りふさいで、お生みになる時に当たってその家に火をつけてお生みになりました。その火が真盛りに燃える時にお生まれになつた御子はホデリの命で、これは隼人等の祖先です。
次にお生まれになつた御子はホスセリの命、次にお生まれになつた御子はホヲリの命、また の名はアマツヒコヒコホホデミの命でございます。
コノハナサクヤヒメは、ニニギのところを訪れて妊娠を告げます。
ニニギは「一夜で子供ができたのか?地上の神の子ではないか?」と疑いました。
コノハナサクヤヒメは「わたくしの子が国の神の子ならば、無事に生まれないでしよう。もし天の神の御子であるなら、無事に生まれるでしよう」と申しました。
そして、戸口のない大きな家を作り、その家に入って粘土でふさぎ、火をつけて出産なさいました。
火が盛んに燃える時に生まれた子はホデリ(火照命)で、これは隼人(はやと)等の祖先です。
次に生まれた子はホスセリ(火須勢理命)、次に生まれた子はホヲリ(火遠理)、またの名はアマツヒコヒコホホデミ(天津日高日子穂穂手見命)でございます。
またしてもニニギは失礼なやつですね。
コノハナサクヤヒメは強い。
火の中での出産を覚悟します。
そうして、3人の子を産みました。
どうも文脈からすると3人とも火の中で出産をしたようですね。
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本ブログで古事記をご紹介する方法について
このブログでは、テキストとして、青空文庫『古事記』現代語訳 武田祐吉を使用します。
この本は初版が1956年と古いので、副読本として三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』朝日新聞出版を使用します。
副読本を使って、現代的な解釈を補ってもらうことにします。
ブログ記事の範囲は、個人的に興味がある、古事記の上巻、神話部分と致します。
全文を読むのは、大変な労力となりますので、独断と偏見で、「重要だ」、「面白い」と判断した部分のテキストを引用して、その解釈と感想について記事を書いていくことにします。
また、できるだけ、インターネットの特長であるビジュアルな記事としたいと思います。
少しずつ、古事記の勉強を進めていきたいと思います。興味のある方は、ぜひ、一緒にを勉強していきませんか。
三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』は、古事記研究の第一人者の書いた本です。これまでの研究成果を踏まえて分かりやすく、現代的に古事記のすべてを解説してくれます。オススメの素晴らしい本です。ぜひ。
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あとがき
今回はニニギと山の神の娘との結婚の物語でした。
桜のように美しいコノハナヒメと岩のようにたくましいイワナガヒメ。
「美と醜」、「繁栄と永続」をこの二人の女性に例える、古事記の知恵はすばらしいですね。
「バナナと岩」とは、次元がちがうような気がします。
古事記に登場する女性は、みなたくましく、強いですね。
これは、1500年前から変わらないですね。
今回もとても面白いストリーでした。
古事記の連載も残すところ、あと2回となりました。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
あと2回、古事記連載にお付き合いよろしくお願いします。
ShinSha
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