時の化石

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末永幸歩著 『13歳からのアート思考』(2) 便器のアート、何も描かない絵 アートとは何なのか?

どーも、ShinShaです。
今回は『13歳からのアート思考』の2回目の記事です。

結論としては、現代アートはきらいですね。
正直にいうと、アートと称する便器や、ペイント垂らした絵が出てきたときには、この本をぶん投げてやろうと思いました(笑)。

しかし、最終章まで読んで腑に落ちました。
もはやアートという概念自体がなくなってきているのですね。
アートとは何かを考えること自体が『アート思考』。
自分の好きな作品を自由に楽しめばいい。

やはり、この本はアートとは何かを学ぶための良い本です。

著者のご紹介

著者は中学校・高等学校の先生でもあるんですね。
僕らのころの、美術の授業ってつまらなかったなぁ。
ぜんぜん、記憶に残っていません。

田舎の公立学校にいたからかもしれませんが、こんなに素晴らしい先生と出会えていたら、人生が変わっていたかもしれません。
中学から、美術を素材にして、柔らかな発想を学べたらすばらしい。

僕は、大学生になってから独学でアートを学び始めたましたが、実際に仕事にも役立っています。
また、アートを学ぶことで、人生が豊かになったと考えてます。

末永幸歩

美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。
現在は、東京学芸大学附属国際中等教育学校で教鞭をとっている。
「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を展開。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。
引用:ダイヤモンド オンライン

『13歳からのアート思考』を読む2

アートという植物

現代のアートを読み解くキーワードとなるのは、前回も登場した「アートいう植物」の考え方です。

筆者はアートを植物にたとえて、「アートという植物」は、「探究の根」「興味のタネ(興味・好奇心・疑問)』「表現の花」からできていると説明しています。
大事なのは、「表現の花」よりむしろ、アートの本質は作品が生み出されるまでの「探究の根」「興味のタネ」が重要だと書いてあります。

20世紀絵画では、マティスが絵を色彩から解放しピカソが絵をルネサンス以降の遠近法から絵を解放しました。
マティスピカソは、「表現の花」より「探究の根」が大事だと考えていました。

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アートという植物

便器のアート?

本書のクラス4では「アートに最も影響を与えた20世紀の作品」第1位としてマルセル・デュシャン(1987-1968)の作品「泉」という作品を紹介しています。

皆さんは、これどう思いますか?
僕は腹が立ちました。
中古の小便器がアート?
ふざけるのもいい加減にしてくれ。

だから、現代アートはきらいなんだと認識させてくれました。
作品のタイトルもふざけてます。
原題 ”Fontaine”を日本語で「泉」と訳していますが、これは明らかに、「噴水 = 小便 」の意味です。

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マルセル・デュシャン「泉」

マルセル・デュシャン - NPR arthistory.about.com, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74693078による

マルセル・デュシャンの作品には、アート思考をもった優れたアーティストでは「表現の花」である作品なんか、何でもいいんだという意味があるそうです。

この作品は、表現の花を極限まで縮小し、反対に探究の根を極大化した作品が『泉』だと説明しています。
マルセル・デュシャンは「アート作品 = 目で見て美しいもの」という、あまりに根源的な常識を打ち破り、アートを思考の領域にまで移した意義があるのだと。

ペンキ垂らした絵画が1億ドル

次に出てくるのが、アメリカの美術家ポール・ジャクソンポロック(1912-1956)の絵です。
ジャクソン・ポロックは抽象表現主義を先導した代表的な人物です。
キャンバスを床に置いて、絵具缶から直接絵具を滴らせるドリップ・ペインティングという独自のスタイルを展開しました。

作品の写真を掲載しました。
皆さんはこの絵どう思いますか?

本を読み終えた今でも、僕はこんなのアートじゃないと思います(笑)。

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Jackson Pollock's Untitled (Green Silver) at MoMA

"Jackson Pollock's Untitled (Green Silver) at MoMA" by divya_ is licensed under CC BY-SA 2.0

第二次世界大戦の戦地となったヨーロッパでは、国土と経済が疲弊していきました。
戦禍をまぬがれたアメリカが国際社会の中心的存在となり、アートの中心もパリからニューヨークに移っていきました。

なるほどそうか。
「歴史のないアメリカにアートの中心が移ったから、こんなことが起こるのだな。」
そう思いました。

それまでの絵画は、ルネサンス以降の長い歴史の流れの中で生まれてきた。
アメリカ人は、無理やりでも新しいアートの価値を作りかったにちがいない(笑)。
この潮流の中で大きな役割を担ったのがポロックでした。

本書の説明では、ポロックは、私たちの眼を「物質としての絵そのもの」に向けさせようとしていると書かれています。
この絵は、ほかの何も表現しない「アートそのもの」を描いた絵であると。
だから作品タイトルは「ナンバー1A」などの番号となっているのです。

ポロックは、アートを「なんらかのイメージを映し出すためのもの」という役割から解放した」という意義があるそうです。

webを探すとポロックの作成制作風景の写真が見つかりました。
絵具、垂らしてますね(笑)。

驚きはポロックの作品が、1億ドル以上の高額の価値で取引されたことです。 まあ、アメリカ人のすることだからね。
そういうこともあるでしょう。

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ポロックの絵画制作 引用:Fasion Headline https://www.fashion-headline.com/article/13050/135701

便器よりは、怒りがおさまってきた(笑)。
アートの中心がアメリカに移ったことで、アートの流れが大きく変わった。
ここはよく理解できます。

ここまで書いてきて、思い出したのはジャズのことです。
1960年代まで盛んだったフリージャズ 、今ではほとんど聴かれません。
あらゆる規制から解き放たれた音楽を追求したムーブメントでしたが、凋落していきました。

1970年にチック・コリア が『リターン・トゥ・フォーエヴァー』を出してから、流れが一気に変わりました。
聴いて楽しくない、美しくない音楽なんて、長く存在できないのです。

まあ、アートもきっと同じでしょう。
ゴッホの作品は長く人々に愛されるだろうけど、ポロック作品が残ることはないでしょう。

アンディ・ウォホールとMoMA美術館

実はここまで書いた部分を読んだ時、この本、ブン投げてやろうと思いました。
しかし、最終章まで読んできて良かった。

最終報は「アートって何だ ーアート思考の極地」となっています。

最初に、アンディ・ウォホール(1928-1987)の作品が掲載されています。

ウォホールは、1964年に台所洗剤「ブリロ洗剤」のパッケージを模した絵柄を、シルクスクリーンという技術を使って、大量木箱に印刷して、天井近くまで積み上げた作品をニューヨークのギャラリーで発表。

スパーにある製品パッケージをコピーして印刷しただけの作品が、果たしてアートなのか?

ウォホールは「キャンベルのスープ缶」「コカ・コーラ」「一ドル札」などを題材とした作品を、工場で商品を大量生産する機械のように、アート作品を作りました。

ウォホールは自分のアートについて、下のように話していました。
「アンディ・ウォホールについて知りたいなら、ただ僕と僕の作品のウワベを見てください。それがすべてです。ウラには何もないです。」

これ、みごとな言葉ですね。 僕はアンディ・ウォホールは、わりと好きなのです。
彼の作品は楽しいし美しいから。

彼がねらったのは、明らかにアートの大衆化、ポップカルチャー化ですね。
美術館に行って見る高尚なイメージのあるアートを、身の回りにあるものに変えてしまったのです。
個人的に、ウォホールのアートには大きい意味があったと思います。

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アンディ・ウォホール「ブリロ ボックス」1964年

"Andy Warhol" by joshthecartoonguy is marked with CC0 1.0

ニューヨークにあるMoMA美術館に、1980年にバンダイナムコから発売された「パックマン」が所蔵されているそうです。
非難が殺到し、新聞には「MoMAビデオゲームゴッホポロックといったアーティストのそばに展示するようだ」と書かれました。
MoMAには、ゴッホの「星月夜」が所蔵されているんですね。

担当者は下のように語りました。
「率直なところ、ビデオゲームがアートかどうかという議論にはまったく興味がありません」
「デザインというものは人間の創造的表現の中で最高の形式の一つだと考えています。偉大なデザインをもつものならそれで十分すぎるほどなのです」

もはや、アートという枠組みが無くなったのです。
筆者は「これがアートだといえるような明確な枠組みがなくなったいま、何がアートであるかは、もはや話し合うべきポイントではない」と書いてます。

MoMAは自分たちの基準によって「本当にすぐれたもの」を選び出そうとしていると解説しています。

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Kid Playing PAC-MAN

"Kid Playing PAC-MAN" by MyStockPhotos is marked with CC0 1.0

本書の感想2

うーん、唸ってしまいますね。
「これがアートだといえるような明確な枠組みがなくなった」
枠組みを壊したアーティストを評価しているのだから、当然そうなりますね。

作者は、デュシャンポロックの作品に対する読者の反発も予想してこの本を書いたのでしょうか?
だとしたら、うまく載せられた気がしますね。
でも、作者の意図に関わらず、現代芸術の流れはそうなっているのですね。

この本を読んで、なぜ現代アートが嫌いなのか、はっきり分かりました。
それが、分かっただけでも進歩かな。
しかし、アートとは何かを考える良い機会となりました。

いろんな考え方があることを理解して、好きなものを楽しめばいいんですね。

あとがき

本書『13歳からのアート思考』は、やわらかい発想を学ぶための優れたアートの教科書です。
やはり僕にとっては、手ごわい本でした。

途中で、数回、読むのを止めようかとも思いました。
しかし最後まで読んで良かったです。

アートとは何かを考えること自体が、『アート思考』なんですね。

今日もこのブログを読んでいただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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