時の化石

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連載記事『日本最古の歴史小説 古事記を読もう』(その16) トヨタマ姫の出産〜ワカミケヌ命の誕生

どーも、ShinShaです。
古事記を読もう』第16回はトヨタマ姫の出産から初代天皇となるワカミケヌ命の誕生までの物語。
今回で古事記上巻の物語は終わり、当ブログの連載記事も終了です。

今回の記事ではトヨタマ姫の出産をめぐる物語が興味深いですね。
どうしても破ってしまう「見てはいけないタブー」。

火中出産、トヨタマ姫の出産の物語。
天の神の子の誕生には、どうしてこんなに不思議なストーリが続くのでしょう。
とても興味深いです。
そこに大きな謎が隠されいるような気がします。

古事記の面白さ

古事記は、およそ1500年前に書かれた現存する日本最古の歴史書です。
語り言葉を生かした漢文体で書かれています。
日本書紀は、古事記ができてから8年後に、本格的な歴史書を作ろうという動きの中で作られた正史です。
中国に習って漢文体で書かれています。

古事記の魅力は、正史である日本書紀には書いてないヤマトに生まれた王権によって日本列島が統一される以前の物語が書いてあることです。
ヤマト王権に、逆らい敗れた者たちの悲劇のドラマが生き生きと書かれているのです。
これこそ、大河小説ではないか。

しかも、全てが空想の物語ではなく、関連する遺跡が発見されていたり、縄文文化とも関わりがあるのです。
古事記とは何なのか。何が書かれているのか? 大きな興味を感じます。

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寛永版本 古事記國學院大學古事記学センター蔵) 引用:Wikipedia https://commons.wikimedia.org/wiki/Special:Search/しんぎんぐきゃっと

古事記を読む(その16)

トヨタマ姫の出産

[テキスト] ここに海神の女、トヨタマ姫の命が御自身で出ておいでになつて申しますには、「わたくしは以前から姙娠しておりますが、今御子を産むべき時になりました。これを思うに天の神の御子を海中でお生み申し上ぐべきではございませんから出て參りました」と申し上げました。

そこでその海辺の 波際に鵜の羽を屋根にして産室を造りました が、その産室がまだ葺き終らないのに、御子が生まれそうになりましたから、産室におはいりになりました。
その時夫の君に申されて言うには「すべて他國の者は子を産む 時になれば、その本国の形になつて産むのです。
それでわたくしももとの身になつて産もうと思いますが、わたくしを御覽遊ばしますな」と申されました。
ところがその言葉を不思議に思われて、今盛んに子をお産みになる最 中に覗いて御覽になると、八丈もある長い鰐になつて匐いのたくつておりました。
そこで畏れ驚いて遁げ退きなさいました。

しかるにトヨタマ姫の命は窺見なさつた事をお知りになつて、恥かしい事にお思いになつて御子を産み置いて「わたくしは常に海の道を通つて通おうと思つておりましたが、わたくしの形を覗いて御覽になつたのは恥かしいことです」と申して、海の道をふさいで歸つておしまいになりました。

海神の娘、トヨタマ姫(豊玉毘売)はホヲリ(火照命)の元を訪れ「私は身ごもっています。子どもを産む時がやってきました。天の神の子を、海の中で生むべきではありませんので、こちらまで参りました。」と申し上げた。

そして、海辺の渚(なぎさ)に鵜の羽を屋根にして産殿(うぶでん)を造られました。
まだ完成しないのに、子が生まれそうになりましたので、あわてて産殿に入られました。

その時、トヨタマ姫は夫に「すべてのよその国の者は子を生む時になると、元の国の形になって生むのです。それで、わたしも今から元の身になって生もうと思います。お願いですから、その様子を見ないでください」と話された。

ホヲリはその言葉を不思議に思い、まさに子が生まれようとする時に産殿の中を覗いてしまいました。 そこには、八丈(2.4メートル)もある大きなワニ(和邇)が這い回りのたくっておりました
それを見て、恐れおののいて、逃げていかれました。

トヨタマ姫はそれを知り、「私は海の道を通って地上まで通おうと思っておりました。私の姿をのぞいてご覧になったのは、とても恥ずかしいことです」と我が子を残したまま、道を閉ざして帰ってしまいました。

ホヲリ(火照命)は、火の中の出産から生まれた子ですが、今度はワニになって子を生むという、異常な誕生の物語が続きます。
山神、海神と血縁を結び、天の神は混血を繰り返して、地上での力を強めていくのです。

神話や昔話では「見るなのタブー」が定番です。
どの物語も約束を破ることで、話が急展開します。
古事記ではイザナミの黄泉の物語にも、同じ「見るなのタブー」が出てきました。

「ぜったい見たらダメ」、この言葉に男は弱いです(笑)
ぜったいに見てしまいます💦
しかし、お産を覗くというのはいけませんね。

副読本では神話や昔話では、見るな、開けるなという約束が守られたためしがないと書いています。
もし約束を守り通したら、物語はつまらないものになってしまいます。

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Hammar head Shark
"hammer time" by David B. Williams is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

ワカミケヌの命(初代天皇)の誕生

[テキスト]

そこでお 産まれになつた御子の名をアマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズの命と申し上げます。
しかしながら後には 窺見なさつた御心を恨みながらも恋しさにお堪えなさらないで、その御子を御養育申し上 げるために、その妹のタマヨリ姫を差しあげ、それに附けて歌を差しあげました。

その歌は、
赤い玉は緒までも光りますが、
白玉のような君のお姿は貴いことです。

そこでその夫の君がお答えなさいました歌は、
水鳥の鴨が降り著く島で 契を結んだ私の妻は忘れられない。
世の終りまでも。

このヒコホホデミの命は高千穗の宮に五百八十年おいでなさいました。
御陵はその高千穗の山の西にあります。

アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズの命は、叔母のタマヨリ姫と結婚してお生みになつた御子の名は、イツセの命・イナヒの命・ミケヌの命・ワカミケヌの命、 またの名はトヨミケヌの命、またの名はカムヤマトイハレ彦の命の四人です。

ミケヌの命は波の高みを蹈んで海外の国へとお渡りになり、イナヒの命は母の國として海原に おはいりになりました。

生まれた御子の名は、アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズ(天津日高日子波限建鵜草葺不合命)の命と申します。

トヨタマ姫は覗いた心を恨みながらも恋しさに耐えられず、御子の養育のために妹のタマヨリ姫を遣わし、そして、歌を差しあげました。
「赤玉は 緒さえ光れど 白玉の 君がよそひし 貴くありけり」
(赤い玉は緒までも光りますが、白玉のような君のお姿は貴いことです。)

ホヲリが歌を返しました。
「沖つ島 鴨着く島に わが寝し 妹はわすれじ 世のことごとくに」
(鴨が降り着く島で 契を結んだ私の妻は忘れられない。世の終りまでも。)

ヒコホホデミ(ホヲリの別名)は高千穗の宮に五百八十年住みました。
その御陵はその高千穗の山の西にあります。

アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズの命は、叔母のタマヨリ姫と結婚されました。
その御子の名は、イツセの命(五瀬命)・イナヒの命(稲飯命)・ミケヌの命(御毛沼命)・ワカミケヌの命(若御毛沼命)、 またの名はトヨミケヌの命(命豊御毛沼命)、またの名はカムヤマトイハレ彦の命(神倭伊波礼毘古命)の四人です。

ミケヌの命は海を越えで海外の国へとお渡りになり、イナヒの命は母の国の海原に おはいりになりました。

(ここで古事記上巻は閉じます)

ニニギ・ホオリ・ウガヤフキアエズの三代は日向三代と呼ばれています。

ここで初めて天の神の子の寿命が書かれています。
なんと580歳。
しかし、古事記では、ここで初めて神の子が人として死んだことになっています。

副読本によると、1874年に明治政府宮内省が、ヒコホホデミ(ホヲリの別名)の陵墓の場所を鹿児島県鹿屋市吾平に決定し、現在もそのまま陵墓として指定されています。
しかし、決定直後から宮崎県の側の強硬な申し入れがあり、その後、宮崎県にも「陵墓参考地」が指定されました💦

古事記の上官の最後にはウガヤフキアヘズの命は、叔母のタマヨリ姫の結婚が語られています。
副読本には、なぜ初代天皇となるカムヤマトイハレ彦の誕生に、叔母・甥の結婚という特殊な設定をしなければならなかったか、と書いています。

母系の血筋に何か特別な意味があったのかもしれない。
初代天皇の誕生が、なぜこのような形で語られるのか非常に興味深いですね。

地上に残されたイツセの命、ワカミケヌの命が古事記中巻の東征伝承の主人公となります。
イツセは途中で亡くなり、ワカミケヌがヤマトに進軍していくのです。

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系図14

nnh - selfmade by MS-Paint, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=631078による

nnh - selfmade by MS-Paint, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=631078による

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Ship Sailing Into the Light

"Ship Sailing Into the Light" by vitorjna is licensed under CC BY-NC 2.0

本ブログで古事記をご紹介する方法について

このブログでは、テキストとして、青空文庫古事記』現代語訳 武田祐吉を使用します。
この本は初版が1956年と古いので、副読本として三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』朝日新聞出版を使用します。
副読本を使って、現代的な解釈を補ってもらうことにします。

ブログ記事の範囲は、個人的に興味がある、古事記の上巻、神話部分と致します。
全文を読むのは、大変な労力となりますので、独断と偏見で、「重要だ」、「面白い」と判断した部分のテキストを引用して、その解釈と感想について記事を書いていくことにします。
また、できるだけ、インターネットの特長であるビジュアルな記事としたいと思います。

少しずつ、古事記の勉強を進めていきたいと思います。興味のある方は、ぜひ、一緒にを勉強していきませんか。

三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』は、古事記研究の第一人者の書いた本です。これまでの研究成果を踏まえて分かりやすく、現代的に古事記のすべてを解説してくれます。オススメの素晴らしい本です。ぜひ。

読み解き古事記 神話篇 (朝日新書)

読み解き古事記 神話篇 (朝日新書)

 あとがき

今回もとても面白いストリーでした。
結局、古事記の上巻をほとんど紹介することになってしまいました。
16回の連載記事、面白いストーリーが多かったですね。
とても1500年前に書かれたとは思えませんでした。

当初計画のとおり、古事記中巻以降の記事は書きません。
つたなく長い連載記事を、読んでいただいた皆様に心より感謝致します。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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