時の化石

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大人の科学(17) 世界を救った女性 mRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ氏の物語

どーも、ShinShaです。
ファイザー、モデルナの新型コロナウィルス、mRAワクチンにはカタリン・カリコ氏の開発した技術が使用されています。

何十億の人が彼女が開発したワクチンで救われた。
もし、彼女の研究が無かったら世界はどうなっていただろうか?

カタリン・カリコ氏はハンガリー出身の研究者。
1985年に研究費が打ち切られ渡米。
アメリカでも数々の挫折が待ち受けていた。

研究資金が足りなくても、大学で変人だと思われても信念を貫き通した。
研究の成果が実るまで、なんと40年心血を注いだのです。

いつの時代でも、世界を変えるのはたった一人の信念だ。
2021年の終わりにこの重要な真理を胸に刻みたい。

mRNAワクチンについても一緒に勉強しましょう。

mRNAとは

私たちの身体の設計情報であるDNAは細胞核の中に大切に保管されています。
DNA、RNAについてちょっと復習しましょう。

下にDNAとRNAの構造を示します。
DNAは二重らせん構造、RNAはシングルのらせん構造をもっています。

生物の設計図DNA、RNAには5種のヌクレオチドがコードの役目をして情報が書かれています。
ヌクレオチドはリン酸・糖(デオキシリボース)・塩基が結合した化学物質です。

ヌクレオチドの塩基には下記の5種類がある。
アデニン Adenine(A) 、チミン Thymine(T) 、グアニン Guanine(G) 、シトシン Cytosine(C)、ウラシル Uracil(U)。

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Difference DNA RNA
File:Difference DNA RNA-DE.svg: Sponk / *translation: Sponk, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons

RNA細胞核にあるDNAの情報を、核の外でタンパク質を作るリボゾームへ届ける核酸です。
タンパク質合成を行うための情報を、細胞核の外まで運ぶためにRNAはあるのです。

つづいて福岡伸一さんのweb記事から引用します。

DNAはデオキシリボ核酸RNAはリボ核酸で、どちらも非常に似通った化学構造なのだが、ほんのひとつ、 デオキシ構造(水酸基-OHがない)の差異だけで、物質としての安定性が格段に違ってくる。
DNAは化学的に安定的で、RNAは化学的に不安定な(分解を受けやすい)物質なのだ。

実はこれにはわけがある。
DNAは情報担体として安定的である必要があるが、RNAは情報の運び屋なので、 細胞にとってむしろ不安定なほうが都合がよいのである。

引用:mRNAからcDNAへ | sotokoto online https://sotokoto-online.jp/1853

DNAは遺伝情報を長期間保存するために安定性の高い構造できている。
また、RNAは情報伝達の役目が終われば壊れてもいい構造になっている。

大事な遺伝情報をもつDNAには外で仕事などさせられない。
だから使い走りのRNAを作った。
自然界は何とよくできた仕組みをもっているだろうか。

RNAにはメッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)という3種類があります。

mRNAはDNAそのものをコピーしたもので、これをもとにタンパク質が作られます。
rRNAはタンパク質を合成するリボソームという酵素を形成し、tRNAは、タンパク質を合成する際に必要なアミノ酸リボソームへ運ぶ果たします。

下の図のように遺伝情報はDNAからRNARNAからタンパク質へと伝えられます。

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Central Dogma of Molecular Biochemistry

"File:Central Dogma of Molecular Biochemistry with Enzymes.jpg" by Dhorspool (talk) Daniel Horspool is licensed under CC BY-SA 3.0

「ポリメラーゼ(Polymerase)」は、DNAやRNAを合成する酵素です。
また、「protein」はタンパク質、「replication」は複製です。

mRNAワクチンについて

mRNAワクチンのしくみ

mRNAワクチンでは新型コロナウィルスのスパイクタンパク情報をコード化したmRNAを工場で合成します。
このワクチンを人間の体内に接種すると、体内で無害なスパイクタンパクが合成され、次に免疫系はこれを外敵とみなして抗体ができます。

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mRNAワクチンと一般のワクチンの違い 引用:https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2102/26/news061_5.html

従来の技術では鶏卵などでウィルスを培養し、無毒化または弱毒科させたものを精製してワクチンを作る必要がありました。
mRNAワクチンは短期間に大量にワクチンを製造できる利点があります。

いかにこれが画期的な技術なのか分かりますね。
また、mRNAワクチンでは、ウィルスが変異しても短期間に新しいワクチンを作ることが可能です。

mRNA技術の実用化まで

僕はこの技術はRNAのしくみを応用したシンプルな技術だと思っていました。
しかし、情報を調べてみると、この技術が実用化されるまでには、なんと40年の時間がかかっているのです。

mRNA技術の研究は1970年代後半から始まっています。
当初は注射したRNAがすぐに人間の体内で分解してしまい、ほとんど機能しなかった。
不安定で高価なRNAは、とても医薬品として使えないと考えられていた。

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mRNA医療薬研究の歴史 引用:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21APO0R20C21A9000000/

人為的に作ったmRNAは、体内では外敵とみなされ免疫の攻撃を受ける。
よく考えれば、mRNA治療でやっていることはウィルスと一緒ですよね。

2005年、カタリン・カリコ氏はmRNA技術のブレークスルーとなる大きな発見をしました。
人間の免疫は外から侵入したRNAを激しく攻撃するが、体細胞が死んだ後に放出される自分のRNAには攻撃を加えないことに注目したのです。
彼女は論文でmRNA中の一つのヌクレオチドを類似物質に置き換えると、免疫反応をすり抜けることを示した。

mRNAのもつウリジンというヌクレオチド(ウラシルから誘導される)の替わりに「プソイドウリジン」という類似物質を用いると、免疫系が敵と認識しなくなることを発見した。
この技術はファイザー、モデルナの新型コロナワクチンに使用されています。

この研究がブレークスルーとなり、その後、一気にmRNA技術の実用化研究が進んだ。
現在ではインフルエンザ、新型コロナウィルス 用のワクチンのみならず、mRNA技術を応用したガンの治療薬開発など、いろいろな研究が進められています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、2021年全世界で500億ドル(約5兆5000億円)の売上げが見込まれている。
下世話なことだが、年間5兆円の売り上げとはスゴすぎる💦

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Solo mrna vaccine
Spencerbdavis, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0, via Wikimedia Commons

世界を救った女性カタリン・カリコ氏の物語

カタリン・カリコ氏はハンガリー出身の研究者です。
新型コロナウィルスワクチンであるmRNAワクチンの開発者です。

彼女の研究がなければどれだけの人が死んでいったか。
カタリン・カリコ氏はまさに世界を救った研究者です。

彼女は1978年から東西冷戦下のハンガリーRNAの研究をしていたが、資金難で研究を続けられなくなった。
1985年にテンプル大学の招きに応じて一家で米国に渡った。

アメリカにはたった100ドルしか持ち込めなかった。
彼女は娘さんのクマのぬいぐるみにお金を隠してアメリカへ持ち出した。
アメリカに渡って生活のレベルを落としてもポスドクとして研究を継続しました。

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Karikó_Katalin
Szegedi Tudományegyetem, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons

1990年代、彼女はmRNA技術の実用化に向けて懸命に研究を続けていた。
しかし研究助成金申請は却下され続け、1995年には大学を去るか降格と減給を受け入れるかの選択を迫らることになった。
学会はmRNAを役に立たない技術だと評価していたのです。

彼女は大学に残って研究を続けた。
研究資金もなく大学内の地位が低くても、日の目を見ないRNAの研究に心血を注いだ。
大学内のほとんどの人に馬鹿にされていた時期もあったそうです。

そして、ついに2005年に革新的な研究成果が生まれた。
研究を始めてから実用化の目処が立つまでおよそ30年だ。
彼女のことを思うと胸が熱くなる。

カタリン・カリコさんのインタビュー動画のリンクを載せました。
66歳の今でも最前線でmRNAの研究を行っています。

彼女はインタビューの中でこう語っています。
タンパク質を化学的に合成するには大規模な製造設備と莫大なコストがかかる。
たった4つのコードをもつmRAを使えば、人間の体内で治療効果をもつ複雑なタンパク質を合成することができる。

無限の可能性をもち、今後も大きく世界に貢献する研究だ。

www.youtube.com

オススメの本

カタリン・カリコ氏について書かれた本をご紹介します。

新型コロナワクチン(mRNAワクチン)を開発し、世界を救った女性研究者カタリン・カリコ氏に迫る唯一の本。
カリコ氏と親交のある、山中伸弥教授のインタビューも掲載!

カリコ氏へのインタビュー、研究者となるきっかけとなったハンガリー時代の恩師への取材を通し、氏の生い立ち、ワクチン開発の裏側、さらにはRNA研究の未来について描いた力作。
引用:https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201215.html

あとがき

新型コロナウィルスワクチンには、一部の人たちからは根強い反対があります。
人間の遺伝子に影響するものではないか?
特に欧米には反対する人が多い。

本文にも書きましたが、mRNAは接種後1−2日で分解され、セントラルドグマによってDNAには影響を及ぼしません。
mRNAはスパイクタンパクの情報を伝達し、体内に抗体を作る働きをするだけ。
不安定なmRNAの特性があるからこそ、医薬品のように使えるのです。

彼女の研究チームはある時、mRNAを用いて細胞が作れるはずのない、新しいタンパク質の合成に成功しました。
「神になった気分だった」カリコ氏はそのときのことを思い返している。

このインスピレーションは、40年という年月も、数々の挫折にあっても揺るがなかった。
自分を信じて、40年間、ひたむきに努力した彼女に惜しみない感謝を捧げたい。
彼女がいなければ世界はどうなっていただろうか。

僕にもこの2年間、実用化ができていない技術があります。
彼女と比べるのは恥ずかしいですが。
来年は必ず実用化し、社会の役に立てていきたいと考えます。

それでは皆様、良い年をお迎えください。

今日も最後までブログを読んでいただき、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

ShinSha