時の化石

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ヘッドホンレビュー SENNHEIZER HD600 〜 やわらかく包み込むようなサウンド。驚くべき情報量と解像度。手放せなくなる名機

今回はドイツ製ヘッドホン SENNHEIZER(ゼンハイザー) HD600 のレビューです。少し前にbeyerdynamicのヘッドホンDT990PROを購入しました。次に欲しくなったのは正統派でフラットな音のヘッドホンでした。やわらく美しい上質なサウンドを聴きたい。

WEBのレビューを読み、仕事の帰りに何回かオーディオショップに通って選んだヘッドホンはSENNHEIZER HD600でした。この製品はゼンハイザーの現在売れ筋のハイエンドモデルの源となった製品。発売以来28年間生き延びている怪物です。

HD600はどこにもひずみがないきれいな音のヘッドホンです。それでいながら恐ろしく解像度が高く情報量も多い。このヘッドホンでクラシックを聴いているとやわらかな音に包まれような喜びを感じるのです。SENNHEIZER HD600について以下に詳しくレポートしていきます。

SENNHEISER HD 600

SENNHEISER について

ゼンハイザー社は Fritz Sennheiser 博士によって 1945年に設立されました。創業以来、3世代約80年にわたって家族経営によってオーディオの開発と製造販売を行ってきている企業です。

オーストリアAKG、米国のJBLなど歴史のある音響製品メーカーが時代とともに勢いを失っていく中、ゼンハイザー社は現在もブランド価値を保ち続けている稀有な企業です。

Fritz Sennheiser 博士と創業時の工場、https://www.sennheiser.co.jp/ から転載

同社の歴史を読んでいると、ヘッドホンで初めての開放型(Open Back型)のヘッドホン(HD 414)を開発し、音響特性を大きく革新しています。また、ダイナミック・ドライバーの高い製造技術をもち、イヤーモニターでも決してバランスド・アーマチュアを使おうとしない、技術への自信と頑固さをもつ企業でもあります。

ゼンハイザー社の製品は他社製品より高価です。しかし日本国内でも長期間にわたり人気を保ち、同社のイヤホン、ヘッドホンは常に製品売上のトップにランクインしています。ゼンハイザーの製品は世界のユーザーから高く評価されているのです。

世界初の開放型ヘッドホン、現在のゼンハイザー本社(ドイツ,Wedemark)

驚くことにゼンハイザー社のコンシューマー製品部門は、2022年、スイスのSonova(ソノヴァ)に譲渡されました。Sonovaはスイスに本社を置く補聴器、聴覚機器などの分野のトップ企業です。譲渡対象となったのはワイヤレスやヘッドフォンなどの機器。HD800やHD600などのヘッドホン製品、インイヤーのIE800、IE300などが含まれています。

一方、HD25などのスタジオモニター、製品名に「PRO」が付くもの、マイク製品は譲渡の対象外で、ゼンハイザーのプロ部門が引き続き製品を製造しています。それ以来、ヘッドホンHD800、HD600シリーズのヘッドホンはアイルランドのタラモア工場で製造されています。

今回調べるまでコンシューマー製品譲渡の件は知りませんでした。時代の流れを感じますね。僕が購入したHD600にはヘアバンドの内側にMADE IN IRELAND の記載がありました。ゼンハイザーは数少ない”PRO”の名称がついたものについては、強いこだわりをもっているということですね。しかし、売れ筋は手放した製品の方が多い気がします。

タラモア工場(:https://www.hardwarezone.com.sg/ から転載)、ヘッドバンドの刻印

SENNHEISER HD600

今回紹介するHD 600はゼンハイザー社が1997年に発売したオープン型ヘッドホンです。同社のHDシリーズ初の600番台であり、発売当時は300Ωの高インピーダンスやリケーブル機能といった設計の先進性が話題となりました。

HD600は以降のHD650、そして後のHD800などに続いていく、ハイエンドシーンのマイルストーン的モデルです。一つの完成形の製品であり、これを時代に合わせてアレンジすることで、それ以降の多様な製品を生み出したともいえます。

HD600広告画像、https://www.amazon.in/ から転載

日本国内では2004年に後継機HD650が発売されるとともに販売されなくなりました。しかしながら、本製品を求めるユーザが多かったのでしょう。2018年から再発売となりました。(海外では継続して販売されていた。)復刻に際して、周波数特性が12~4万500Hzに拡張され、現代のハイレゾ音源にも対応するようになりました。

この製品は発売以来28年が経過していますが、国内外でクラシック音楽をメインにしているエンジニアにはHD600を使い続けている人が少なくないといいます。また、クラシック愛好家には変わらず根強い人気があります。

HD6xxx 、https://www.reddit.com/ から転載

製品仕様

SENNHEIZER HD600
形式:オープンタイプ、ダイナミックドライバー (φ40 mm)
再生周波数帯域:12 HZ - 40.5 KHZ
筐体素材   : 樹脂(イヤーパッド:ベロア)
インピーダンス: 300 Ω、感度:97 dB/mW
接続プラグ  :3.5mm(ミニ)、6.3mm(標準)アダプター付属
コード:ケーブル、3m(両出し)
質量:260g(ケーブル、コネクターを含まず)

SENNHEIZER HD600

購入ヘッドホンの写真

購入した製品の写真を掲載します。製品パッケージはシンプルな紙の包装です。

ゼンハイザーHD600を開封

付属品はありません。箱に中に入っているのはヘッドホンと説明書だけです。細く長いケーブルが折りたたんであります。

製品を取り出す


違う角度から

ケーブルはシンプルなリッツ線です。長さが3mなのでちょっと取り扱いに困るのです。新たにケーブルを購入するのも費用がかかるので、現在はスパイラルチューブでまとめて使っています。

ケーブルをまとめる

製品レビュー

総合評価

SENNHEZER HD600
総合     :☆☆☆☆☆
デザイン・質感:☆☆☆☆☆
装着感    :☆☆☆☆☆
サウンド   :☆☆☆☆☆
定位・空間表現:☆☆☆☆☆

<音質バランス>


[コメント]
やわらかく空気のようの主張のない音質。どこにもひずみが感じられない。それでいながら恐ろしく解像度が高く情報量も多い。初めて聴いた不思議な音の製品です。開放型の構造をもっているので音の広がりは自然です。

前回購入したbeyerdynamic DT990PROは低域、高域ともブーストしてあり、素晴らしい音がするのですが、頻繁に音のひずみが発生する製品です。両極端の存在だと思いました。

Webの中にHD600の周波数特性を見つけました。この図をハーマン・ターゲットカーブと比較すると、200HZ〜2000Hzの量感が少し多く、200HZ以下の量はかなり少ない。つまり、わずかに中低域〜中域が盛ってあり低域の量は小さい。

開放型であるため低域が抜けてしまうのです。キックドラムやベースラインに迫力が欠けているので、EDMやヒップホップのファンは少しがっかりするかもしれません。

HD600(HD602)の周波数特性、https://weekly.ascii.jp/ から転載

再生する音の情報量の多さ、解像度の高さは驚くほどです。何回も聴いてきた楽曲の中にも新しい音が聞こえたり、これまでにないほど楽器のリアリティを感じるます。この特徴は同社が開発したダイナミック・ドライバー(トランスデューサー)の性能によるものだと考えられます。

このヘッドホンは、クラシック、ポップス、ジャズなど、あらゆるジャンルの音楽を聴くことができます。特にクラシック音楽を聴くのに最適だと感じました。HD600でシンフォニー、ピアノコンチェルトを聴いていると、音に包まれているような幸福な気分となるのです。

最後に本製品はインピーダンスが高く、鳴らすにはそれなりのパワーのあるアンプが必要となります。スマートホンに接続して鳴らせるような製品ではありません。この点は注意してください。

サウンド・インプレッション

まずクラシックを聴いてみました。坂本龍一”Andata”。何度も聴いてきた大好きな曲ですが、常にこれまで聞こえなかった音が聞こえくる。続けて聴いた”Walker”でも同じでした。改めて曲の音の美しさに感動しながら、坂本さんはここまで細部までこだわって曲を作っていたのだと感動しました。

続いてグレン・グールドの Goldberg Variationsを聴きました。空間に広がり消えていくようなピアノの響きが美しい。ところが困ったことにグールドのスキャットがまるまる聞こてくるのです。鼻歌は以前から分かっていましたが、これほどまで聞き取れてしまうのか。ちょっと驚きでした。

次は 反田恭平 “ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 Ⅱ Adagio Sostenuto”。このヘッドホン特有の何種類もの楽器が多層に織りなす、やわらかいサウンドが美しいです。ピアノの音が際立って聴えてきます。

弦楽器は4種類使われていますが、訓練された人なら聞き分けられるのかな。情報量、分離感に優れているから、ほかの楽器の音も識別ができそうです。クラシック系のエンジアが手放さないということが実感で分かります。

ゼンハイザーのIE100PROをレビューした時にも感じたのですが、こんなヘッドホンを作ってしまうなんて、ドイツ人の頭の中にはきっとシンフォニーが鳴っているに違いない。

このほか、反田恭平のピアノソナタ村治佳織のギターなど何曲も聴きました、没入感のあるやわらかい音に包まれて、至福の時を過ごしました。HD600で聴くクラシックは特別だ。

Glenn Gould Plays Bach: Goldberg Vari

ジャズの楽曲ではキース・ジャレットを聴いてみました。チャーリー・ヘイデンのデュエット”フォー・オール・ウィ・ノウ” “月とてもなく”。キースのピアノがとても美しく、ウッドベースの弦のビビリ音までリアルに聞こえてきます。

最後はポップスの楽曲。イヤホン、ヘッドホンの音を確認する時、基準としていている楽曲があります。今回は中島美嘉“ORION with ensemble”をじっくり聴きました。

生々しさを感じる綺麗なボーカルです。ストリングスにはこれまで聴いてきた音より繊細なニュアンスを感じます。他の音の干渉でこれまで潰れ気味に聞こえていたピアノの響きが美しい。ポップスを聴いても素晴らしいサウンドを届けてくれます。

"violino section playing" by www.audio-luci-store.it is licensed under CC BY 2.0.

試聴曲

[Classic]
坂本龍一 async : “andata” “Walker”、フリードリッヒ・グルダ Goldberg Variations, BMV998(1981 Recording)、反田恭平 ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ単調: ”Ⅱ Adagio Sostenuto”
[Jazz]
Keith Jarrett & Charlie Haden: Jasmine “フォー・オール・ウィ・ノウ” “月とてもなく”
[Pops]
中島美嘉 ”ORION with ensemble”

[試聴環境]
音源:Apple Music (ロスレスハイレゾロスレス)、DAC: S.M.S.L DO 400

デザイン・製品の質感

機能本意なデザインは個人的な好みです。28年前にこんな先進的な工業デザインができたんだ。ちょっとした驚きを感じました。高級感はありませんが、いま見ても細部まで作り上げられていてなかなかカッコいい。

装着感

耳全体を覆う大きめのハウジングで装着感は良好です。上部にはクッションがあり、イヤーパッドはやわらかく側圧も適度で長時間もつけていられます。イヤーパッドの毛足は短くなめらかです。

音場・定位感

音場は広すぎず、左右に適度な広さがあるホールのイメージです。DT990PROの音場は左右の分離感が強いのですが、HD600は自然な音場だと感じます。また、定位は正確で音の分離性が極めて高い特徴があります。

記事で採り上げた商品のリンク

ゼンハイザーの製品は年数回開催されるセールで買うのがオスススメ。今ならAmazonブラックフライデーセールで安くなってます!

おわりに

オーディオの世界では何十年も生き延びている怪物がいます。今回のSENNHEIZER HD600もその一つです。後継機種が出ても新製品が発売されても、これしかダメだと強い愛着をもつユーザーがたくさん存在します。価格.comの製品レビューにその一端を見ることができます。

この製品の音質の特徴は海外サイトのデータを見て、チューニングテクニックをなるほどなぁと感じることができたのですが、驚きはこのヘッドホンの情報量の多さと解像度でした。サウンドインプレッションにも書いたのですが、ほかの他の製品では聞こえなかった音がいろいろ聞こえるのです。

この性能はこれまで聴いてきたどの製品より突出しているのです。やはりゼンハイザーの技術はすごいなぁ。他の技術に見向きもせず、ひたすらダイナミック・ドライバーの性能を磨き上げたからこその音なんだと感動しています。

日本国内の大手ショップではセールス上位を占め、製品の価格も維持している、そんなゼンハイザー社でもコンシューマー製品を手放してしまうほど、オーディオの世界も大変なのだな。ひょっとすると昨今の中国とドイツ本国の景気が影響しているのかな。記事を書きながらそう考えました。

ヘッドホンを何本も試聴し、webの情報やレビューを見ながら、この数ヶ月でヘッドホンを2本購入しました。気が付いたらドイツ製、開放型の20年以上存続している怪物ヘッドホンが2つ揃ってしまった。やはりドイツの音響製品はすごい。しかし開放型だと夜遅くは聴けないし、このままだと怪物同士が争いそうだ。どちらかを手放して、密閉型をもう少しジャズ寄り製品を買いたいと考えています。ヘッドホンはリセールスバリューが低いのでキビシィ〜😅

ShinSha