時の化石

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大人の科学(8) 生命の「動的平衡」とは

私たちの体は絶えず分解されて、数ヶ月前の自分とは別のものになっている。
こんな話を耳にされたことはないでしょうか?
初めてこの事実を知った時、驚愕しました。

生物とはなんと不思議な仕組みをもっているのでしょう。
今回の大人の科学は、生命の「動的平衡」に関する記事です。

動的平衡」とは

シェーンハイマーの驚くべき発見

アメリカの生化学者、ルドルフ・シェーンハイマー(1898-1941)は、生物の体内での代謝を追跡する方法を考案しました。

シェーンハイマーは窒素、水素の同位体から合成されたアミノ酸、脂肪をネズミに与えて、その同位体を追跡して生物の体内の物質循環を解明したのです。

彼は実験を通じて、エサの中の窒素同位体を含んだアミノ酸、水槽同位体を含んだ脂肪が、ネズミの身体の隅々に行きわたった後で、排泄される現象を発見したのです。

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ルドルフ・シェーンハイマー

public domain, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=23421680による

シェーンハイマーは自らの発見をこう述べています。

生物が生きている限り、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物もともに変化して止まない。
生物とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。

こうして、驚きべき、新しい生命観が生まれたのです。

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動的平衡」とは

動的平衡」は、シェーン・ハイマーの発見した生命の動的な状態(Dynamic State)を拡張して、福岡伸一先生が提唱した言葉です。

動的平衡」について、福岡伸一先生は下記のように説明しています。

生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。
身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。

だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とはまったく別物になっている。
分子は環境からやってきて、いっとき淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へ解き放たれていく。

つまり環境は常に私たちの身体の中を通り抜けている。
いや「通り抜ける」という表現も正確でない。
なぜなら、そこには分子が「通り過ぎる」べき容れ物があったわけではなく、ここで容れ物と呼んでいる私たちの体自体も「通り過ぎつつある」分子が、一時的に形作っているにすぎないからである。
引用:福岡伸一著『新版 動的平衡

webに動的平衡のイメージムービーが掲載されていましたのでリンクを貼ります。 この概念を視覚的にとらえた素晴らしい映像だと思います。

youtu.be

引用:動的平衡 THA http://tha.jp/8826/

私たちの体は、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸などの分子からできています。
私たちの身体は、これらの物質を絶え間なく、分解と合成を繰り返すことで成り立っています。

爪や皮膚、髪の毛は言うにおよばず、骨や歯のような固いものも内部は動的平衡状態にあり、脳細胞も作り替えられるのです
私たちは、私たちを作っている物質そのものではなく、流れていく物質の「淀み」でしかない。

作ったばかりのビルも、自動車もいずれ古びていき、いつかは朽ちていく。
生物は、たえず自分を作り替えることで、生命を長い時間にわたって維持しているのですね。

この事実を知ると、生物に対する根本的な見方までも変わってしまいます。

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Butterfly Kisses
"Butterfly Kisses" by TanWei is licensed under CC BY-NC-ND 2.0

生物とは何か?

こうした事実を知ると、あらためて「生命とは何か?」という疑問が湧いてきます。 これについて福岡先生は下のように説明しています。

ここでわたしたちは改めて「生命とは何か」という問いに答えることができる。
「生命とは動的平衡にあるシステムである」という回答である。

可変的なサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造要素、つまり構成分子そのものに依存しているのでなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。
生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。

一輪車に乗っているバランスを保つときのように、むしろ小きざみに動いているからこそ、並行を維持できるのだ。
サスティナブルは、動きながら常に分解と再生を繰り返し、自分を作り変えている。
それゆえに、環境変化に適応でき、また自分の傷を癒すことができる。 引用:福岡伸一著『新版 動的平衡

「生命とは動的平衡にあるシステムである」。
なかなか難しい言葉です。

体内の物質の分解と合成を繰り返して、維持するしくみそのものが生物であるということでしょう。

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Nature bird
"Nature bird" by @Doug88888 is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

宇宙では、すべての現象が「エントロピー増大の法則」に従います。
分かりやすくいうと、氷が解けて水や水蒸気に変わっていくように、整ったものは乱雑になっていく。
生命を構成する分子は、そのままでは劣化して分解していくしかないのです。

科学者アンリ・ベルクソン「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある」(1907)と言った。

生命は自らを分解して増大するエントロピーを捨て、合成するしくみを持つことで、坂を登っていくのです。
この坂を登っていくしくみが「動的平衡」なのです。
引用:福岡伸一著『新版 動的平衡

「分解と合成を繰り返しながら、小きざみにゆれて、エントロピーの坂を上る一輪車」。
これが動的平衡から見た生物のイメージなんですね。

生命の本質である「動的平衡」を知ることは大きな感動でした。

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動的平衡」のモデル図

参考図書

今回の記事は福岡伸一先生の下記の2冊の本を参考にして書きました。
分子生命学者が書く生命の本質。
素晴らしい本です。
また、ウィルス、PCR、病原体、ダイエットに関する内容も書かれていますよ。
オススメです!

あとがき

今回の記事は抽象的で少し分かりにくかったかもしれません。
大づかみに内容を理解いただければと思います。

しかし、今回も驚くべき内容でしたね。 記事を読んだ皆様から、こんな感想が聞こえてきます。

「どうせ作り替えるなら、どうして15際のピチピチの私に戻らないの?」
「数ヶ月で体が入れ替わるならば、この仕組み使って不老不死が実現できるのでは?」
「脳細胞が入れ替わるんなら、記憶ってどこにあるの?」

いやぁ、ごもっともです。
僕も同じことを考えましたから。
そして、バイオサイエンスでは、これらの研究が実際に行われているんですね。

しばらく前に「僕は神も仏も信じません」と書きました。
しかし、こうした生物のメカニズム、自然の摂理を知れば知るほど、宇宙には超越した治世が存在すると考えてしまうのです。

今日も最後までブログを読んでいただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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