時の化石

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Y染色体の6万年の旅 福岡伸一著『できそこないの男たち』を読む

どーも、ShinShaです。

今回はY染色体の旅に関する記事です。女性の使い走りである男は、アフリカを出て世界中を旅しました。そして男たちが、再び落ち合った特別な場所が日本だったのです。

先日、当ブログでは福岡伸一著『できそこないの男たち』をご紹介しました。さらに、この本を読み続けると「Yの旅路」という章があります。この内容が、あまりにも面白かったので、再びブログで採り上げることにしました。

きっと、使い走りの男たちは、女性たちに言われたに違いない。「お腹すいた。」「もっと美味しいものないの?」「隣の奥さんキラキラの石もってるのよ。私もほしい。」

男たちは、6万年も前に住み慣れたアフリカを出て、決死の思いで、歩いて、牛車に乗って、質素な舟に乗って、世界中を旅をしたのです。これは、もう涙なくしては語れない。。。

著者 福岡伸一さんのプロフィール

最近、福岡伸一さんの本の記事が多くなっています。きっかけは『コロナ後の世界を語る -現代の知性たちの視線- 』のウィルスに関する記事を読んでからです。

それ以降、『動的平衡』、『生物と無生物の間』を読み、ブログでご紹介してきました。福岡伸一さん、文章が抜群にうまいですね。彼の本から、ウィルスに関する情報、PCRの仕組みなど、勉強できたことはとても有意義でした。

今回の本は2009年新書大賞第2位。読み物としては、これまで読んだ福岡伸一さんの本の中で最も面白いです。

福岡伸一

福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

引用:https://dot.asahi.com/columnist/profile/?author_id=hukuoka_s

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福岡伸一著『できそこないの男たち』光文社新書

できそこないの男たち

前の記事の復習を簡単に。なぜ男が、できそこないで、使い走りなのかという理由を簡単にまとめて書きますね。

(1)生物は基本的にメスだけで命を繋いでいくことができます。これを単為生殖とよびます。哺乳類には単為生殖で繁殖する動物はいませんが、生物全体ではマイナーな存在なのです。

(2)オスは、ありあわせの遺伝子から作られる。アリマキは遺伝子を1個捨ててオスが作られる。ヒトでは1組の染色体にY染色体をもつとオスとなる。X染色体には2000~3000の遺伝子が含まれているが,Y染色体には数十個の遺伝子しかない。しかも中味はジャンクだらけで、ほとんど役に立たない。オスはありあわせで作られるから、できそこないなのです。

(3)オスの役割は、メスが繋いでいる遺伝子に他の遺伝子を混ぜること。もう一つはメスやコドモに食べ物を届けることしかない。つまり、使い走りの役割しかないのです。

なぜ、オスが作られたのか。それは、生物の遺伝子に多様性をもたらすためです。

気象など環境に大きな変化が生ずると、生物には絶滅の危機が訪れます。こういった危機の中では、多様性がある生物は生き延びる可能性が増加します。この、万が一に生き延びる可能性を作るためにオスは作られたのです。
書いていて何だか悲しい。。。

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アリマキの写真 できそこないのオスはメスよりかなり小さい
"Q20160729-0010—Aphis nerii—RPBG" by John Rusk is licensed under CC BY 2.0

Y染色体の大移動

Y染色体の多型性を解析すると、男の系統と移動を再現することができます。2002年、世界中の男たちから集められたY染色体の解析結果が集大成されたのです。

驚くことに、この結果は、女性のミトコンドリアDNA分析結果と、まったく一致していたのです。地球上で存在するすべての男のルーツは、十数万年前にアフリカで生まれた一種の男性の遺伝子に由来することが判明したのです。このY-DNAアダムは、ミトコンドリア・イブと同じ時代、同じ地域に存在していたと考えられるのです。

この解析結果には、ものすごく感動しますね。女性と男性の遺伝子解析結果が、同じ頃のアフリカを出発点としてるとは。なんと素晴らしいのでしょうか。

男たちの一部は約6万年前にアフリカを出ました。

Y-DNAアダムの子孫のうち、系統A、Bはアフリカに留まった。系統C、D、FのY染色体をもつ男たちは、アフリカから旅に出た。

C系統の男たちは、ソマリア付近から海岸沿いにインド、インドネシアオセアニアに展開した。一部はアジア地域に移動し、ツングース、モンゴル、カザフスタンに定住した。また、一部はベーリング海峡を渡ってアラスカからアメリカまで旅をした。その男たちはアメリカ先住民となった。さらにC系統の染色体をもつ男たちは、最も早い時期に日本列島に到達した。

D系統の男たちは、アフリカから海岸沿いにインドを通り、インドシナ半島付近で一部はモンゴルに、別の一部はチベットに移動し定住した。また、最後のグループは台湾から沖縄を経て日本に到着して定住した。一部には朝鮮半島経由からも移動があったと考えられる。このD2型は日本に固有の染色体タイプなのです。

F系統の男たちは世界中に散らばり、最もたくさんの系統を生み出した。F系統から分岐したK系統はL、M、N、Oに分岐して東南アジア、中国に広がった。

P系統はR、Qに分岐し現在のヨーロッパの人々になった。

まさに、男たちは何もない6万年前の時代にアフリカを出て、世界中に使い走りに出たわけですね。そして、日本列島には4万年前頃に到着したのです。

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Y染色体の系譜 (下記CC画像をベースに、福岡伸一著『できそこないの男たち』P.207図を参照して作成)
"File:Eritrea (Africa orthographic projection).svg" byAfrica_(orthographic_projection).svg: Martin23230 LocationEritrea.svg: User:Rei-artur derivative work: Sémhur (talk).svg) is licensed under CC BY-SA 3.0

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世界のY染色体系統の分布と移動経路
"File:World Map of Y-DNA Haplogroups1.png" by Y-dna data file is licensed under [CC BY-SA 4.0] (図の一部を拡大表示)

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Y染色体の系譜と民族

"File:The trunk of the Y chromosome haplogroup tree and illustrated people with the relevant haplogroups.jpg" by Chuan-Chao Wang, Hui Li is licensed under CC BY 3.0

日本人のY染色体

日本列島への染色体の移動

日本列島に最初に到着したのは、C の染色体をもつ旧石器人の男たちだった。下の図では2万年前に九州に渡ったように書かれていますが、webで情報を調べると約4万年前に、日本に入ってきたのが正しい学説のようです。日本列島では4万年前よりわずかに新しい時期に、急激に遺跡が増えています。彼らは黒潮を横切るような、高度な航海術を持っていたのです。

次に、日本列島にやってきたのは、D2の系統の男たち。彼らは約2万年前に日本にやってきた。この男たちは縄文人として日本に定着した。日本列島に独自の文化と言語を作ったのは縄文の人たちである。縄文文化は1万年以上も続いた優れた文化であり、世界4代文明に匹敵すると主張する学者もいます。

その次に、約2千年前に日本にやってきたのは、O系統の男たち。彼らは朝鮮半島から移動してきて、弥生人として日本に定着した。弥生人たちは、稲作を行い集落を作った。また、金属製の優れた武器をもっていた。弥生人は九州から東へ進出し、これによって縄文人は日本の北部、南部に押しやられた。

この、弥生人縄文人を駆逐していく物語が、本ブログで連載をしている古事記の物語なんですね。

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日本列島へのY染色体移動の歴史

"File:Migration of the Y chromosome haplogroup C, D, N and O in East Asia.jpg" by Chuan-Chao Wang, Hui Li is licensed under CC BY 3.0

アジア諸国Y染色体

下に東アジア諸国に住む男のY染色体の分布図を載せました。アジアでは、他の国と比べて日本だけが大きく変わってますね。

現在の日本人で最も高い頻度で見つかるのがD2型です。D2は縄文人の染色体でしたね。D2型はどの地域の男にも高い頻度で見つかります。特にD2を色濃くもつ集団はアイヌ、東北、日本海、沖縄に住む男たちです。

Y染色体から見ると日本人は単一民族ではありません。
多くの日本人の男たちはC、D、O系統の情報をもっています。
アフリカを出た三つの系統が流れ流れて、もう一度落ち合った特別な場所として日本列島が現れる。
日本列島こそが、人種のるつぼなのだ。

この部分、すばらしいですね。読んでいてすごく感動します。アフリカから出た3種の染色体系統、旧石器人、縄文人弥生人の遺伝子を引きつぐのが日本人。だから日本の文化にはオリジナリティがあるのです。決して中国文化の亜流なんかではありえないのです。

ちなみに、Y染色体が日本人と似ているのは、チベットの人たちなんですね。

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Y染色体クレードの東アジア集団における地理的分布 引用:「現代人のゲノムから過去を知る」https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2019/6431/

できそこないの男たち (光文社新書)

できそこないの男たち (光文社新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

あとがき

今日の記事、個人的にはものすごく面白かったです。Y染色体の分布、移動の図は、3日眺めても飽きそうにありません。
今回の記事で、古事記のストリーが何を意味するのか、なぜ津軽弁琉球弁に共通の言葉があるのか、明解に理解できました。なぜ、アメリカンインディアン、アボリジニマオリ黄色人種なのかも、よく理解できました。

分子生物学という学問は、じつに興味深いですね。染色体情報の分析から、世界の歴史、文化の秘密まで解明することができます。じつに感動的でした。

あらためて、6万年も前から、より良い暮らしを求めて世界中を旅した、使い走りの先輩諸氏に敬意を表します。

今日もこのブログを訪問いただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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