時の化石

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連載記事『日本最古の歴史小説 古事記を読もう』(その12)さらばオオクニヌシ

今回は古事記を読もう』第12回の記事。アマテラスによる三回目の侵略でついにオオクニヌシは力尽きる。今回の物語では"飛行船"、"空中浮遊"が登場。SF小説 のように想像力にあふれたストーリーです。

どーも、ShinShaです。
古事記は三回繰り返して、話が決着していくようですね。今度の高天原(たかまがはら)からの刺客は最強の神、タケミカヅチ(建御雷神)。残念ながら楽しかったオオクニヌシとも今回でお別れです。

古事記の面白さ

古事記は、およそ1500年前に書かれた現存する日本最古の歴史書です。語り言葉を生かした漢文体で書かれています。日本書紀は、古事記ができてから8年後に、本格的な歴史書を作ろうという動きの中で作られた正史です。中国に習って漢文体で書かれています。

古事記の魅力は、正史である日本書紀には書いてないヤマトに生まれた王権によって日本列島が統一される以前の物語が書いてあることです。ヤマト王権に、逆らい敗れた者たちの悲劇のドラマが生き生きと書かれているのです。これこそ、大河小説ではないか。

しかも、全てが空想の物語ではなく、関連する遺跡が発見されていたり、縄文文化とも関わりがあるのです。古事記とは何なのか。何が書かれているのか? 大きな興味を感じます。

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寛永版本 古事記國學院大學古事記学センター蔵) 引用:Wikipedia https://commons.wikimedia.org/wiki/Special:Search/しんぎんぐきゃっと

古事記を読む(その12)

三度目の刺客

[テキスト]

――出雲の神が、託宣によつて国を譲つたことを語る。出雲大社の鎮座縁起を、政治的に解釈したものと考えられる。――

かように天若日子もだめだつたので、天照らす大神の仰せになるには、「またどの神を遣したらよかろう」と仰せになりました。

そこでオモヒガネの神また多くの神たちの申されるには、「天のヤス河の河上の天の石屋(いわや)においでになるアメノヲハバリの神がよろしいでしよう。

もしこの神でなくば、その神の子のタケミカヅチの神を遣(つかわ)すべきでしよう。

アメノヲハバリの神はヤスの河の水を 逆様に塞きあげて道を塞いでおりますから、他の神では行かれますまい。

特にアメノカクの神を遣してヲハバリの神に尋ねさせな ければなりますまい」と申しました。

依つてカクの神を遣して尋ねた時に、「謹しんでお仕え申しましよう。しかしわたくしの子のタケミカヅチの神を遣しましよう」と申 して奉りました。

そこでアメノトリフネの神をタケミカヅチの神に副えて遣されました。

2回目の天若日子の派遣も失敗したので、アマテラスは今度はどの神を派遣したらいいだろうかと相談された。

オモヒカネ(思金神)と他の神々は、今度はアメノヲハバリ(天之尾羽張)の神か、その子のタケミカヅチ神(建御雷神)を派遣すべきだと進言しました。

アメノヲハバリは天の安河の水を堰(せ)き止めて道を塞いでいるので、アメノカク(天迦久神)の神を派遣して連絡なけければなりません。

アメノカクを使ってアメノヲハバリに依頼したところ、謹んで私の子のタケミカヅチ神を出しましょうと返事をしました。

そこで、天を飛ぶアメノトリフネの神とタケミカヅチの神を派遣された。

アメノヲハバリ(天之尾羽張)はイザナギが、イナナミが死ぬ原因となった火神カグツチを斬り殺した時に使った剣の名前です。タケミカヅチ神(建御雷神)は火神カグツチを斬った時に生じた血から生まれた八神のなかの神です。

アメノヲハバリ、タケミカヅチ古事記を読む(その2)で紹介した黄泉の物語に登場しました。古事記の物語はこうして、様々なエピソードがつながってできているのですね。

アメノヲハバリもタケミカヅチもめちゃくちゃ強そうですね。副読本では高天原(たかまがはら)最強の神だと解説しています。

アメノヲハバリは水を堰(せ)き止めて人里離れたところに暮らしており、そこに派遣する使いアメノカク(天迦久神)のカクは水手、船をこぐ神の意味です。

そして、空を飛ぶ船、アメノトリフネに乗ってタケミカヅチの神は地上に行くのです。

火神カグツチを斬った剣の神とその子の神、空飛ぶ船。これはSF小説ですね。すばらしい想像力で物語が語られていきます。

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Aeronautic

"Aeronautics - Aerial Machines from the book New Popular Educator (1904), a vintage collection of early aerial machines. Digitally enhanced from our own original plate." byFree Public Domain Illustrations by rawpixel is licensed under CC BY 2.0

タケミカヅチの神

[テキスト]

そこでこのお二方の神が出雲の国のイザサの小浜に降りついて、長い剣を拔いて波の上に逆様に 刺し立てて、その剣のきつさきに安座をかいて大国主の命にお尋ねになるには、「天照らす大神、高木の神の仰せ言で問の使に来ました。あなたの領している葦原の中心の国は我が御子の治むべき国であると御命令がありました。あなたの心はどうですか」とお尋ねになりましたから、答えて申しますには「わたくしは何とも申しません。わたくしの子のコトシロヌシの神が御返事申し上ぐべきですが、鳥や魚の漁をしにミホの埼に行つておつてまだ還つて參りません」と申しました。

依つてアメノトリフネの神を遣してコトシロヌシの神を呼んで来てお尋ねになつた時に、その父の神樣に「この国は謹しんで天の神の御子に獻上なさいませ」と言つて、その船を踏み傾けて、逆様に手をうつて青々とした神 籬を作り成してその中に隱れてお鎭まりになりまし た。

そこで大国主の命にお尋ねになつたのは、「今あなたの子のコトシロヌシの神はかように申しました。また申すべき子がありますか」と問われました。

そこで大国主の命 は「またわたくしの子にタケミナカタの神があります。これ以外にはございません」と申される時に、タケミナカタの神が大きな石を手の上にさし上げて来て、「誰だ、わしの国に来て内緒話をしているのは。さあ、力くらべをしよう。わしが先にその手を掴むぞ」と言いました。

そこでその手を取らせますと、立つている氷のようであり、剣の刃のようでありました。そこで恐れて退いております。

今度はタケミナカタの神の手を取ろうと言つてこれを取ると、若いアシを掴むように掴みひしいで、投げうたれたので逃げて行きました。

それを追つて信濃の国の諏訪の湖に追い攻めて、殺そうとなさつた時に、タケミナカタの神の申されますには、「恐れ多いことです。わたくしをお殺しなさいますな。この地以外には他の土地には参りますまい。またわたくしの父大国主の命の言葉に背きますまい。この葦原の中心の国は天の神の御子の仰せにまかせて獻上致しましよう」と申しました。

アナマノトリフネとタケミカヅチの神は出雲のいざさの浜についた。タケミカヅチは長い剣を抜いて波の上に逆さに突き立てて、剣の切っ先の上に胡座をかいて座りオオクニヌシに尋ねた。

「アマテラス大神、タカギの神の使いで来ました。あなたの領地はアマテラス様の御子が治めるべき国であると命令がありました。あなたの心はどうですか?」

オオクニヌシは「わたくしの子のコトシロヌシの神が返事を申し上げるべきですが、漁をしにミホの岬に行つてまだ帰って参りません」と答えた。

”長い剣を抜いて波の上に逆さに突き立てて、剣の切っ先の上に胡座をかいて座った”というのはヤバいですね。空中浮遊の技です。この場面からはタケミカヅチが尋常ではない力を持っており、その力を誇示しながらオオクニヌシに向かって話をしています.これは、ものすごい威嚇ですね。

この場面から、何となくスターウォーズヨーダかルーク・スカィウォーカーを連想したのですが、もっと近いイメージはあるでしょうか?

タケミカヅチは、すぐにアメノトリフネを送って、コトシロヌシの神を連れて来させて尋ねた。

コトシロヌキの神は、オオクニヌシに「この国は謹んでアマテラスに献上なされよ」と言って、自分が乗ってきた船を踏んで傾け、逆さにして青々とした神籬(ひもろぎ)を作ってその中に隠れてしまった。

タケミカヅチは、他に意見を言う子供はいるかと尋ねると、オオクニヌシは他にはタケミナカタ建御名方神)の神がいると答えました。

コトシロヌシがいないから回答できないと半分言い訳を言っていたが、アメノトリフネを使ってすぐに連れて来られた。

あとの文を読むと、アメノトリフネはコトシロヌシの船を連行してきたようです。タケミカヅチはすごい力をもっていますね。

神籬(ひもろぎ)とは、木の枝をこんもり重ねて作った神を迎えるしつらえのこと。副読本ではコトシロヌキは死んだのではないかと記されています。

ちょうどそこにタケミナカタの神が、千(ち)びきの大岩を手で持ちながら「ワシの国で内緒話をしているのは誰だ?力比べをしよう。」と言って、タケミカヅチの手を掴むと、手は氷のように変わり、次には剣の刃のように変わったので驚いて逃げた。

今度はタケミカヅチが、タケミナカタの手を取って、葦のように握りつぶして身体ごと放り投げた。さらに、信濃国諏訪湖まで追いかけて、殺そうとした。

タケミナカタは「私を殺さないでください。この地の外には出ません。父オオクニヌシの言葉には背きません。この国はアマテラスの御子に献上します」と命乞いをしました。

タケミナカタは、黄泉の国から追いかけてきたイザナミを止めた、千人でやっと動く大岩を手に持ってきたということですから、怪力で大きな身体を持っていたのでしょう。だから力比べをしようとしたのです。

しかし、タケミカヅチの手は手が氷や剣に変化する。この部分もすごいですね。ターミネーターをイメージしました。

副読本には、別の古文書より、タケミナカタ建御名方神)は糸魚川のヌナガハヒメ(沼河姫)との間にできた子であると解説があります。出雲ー糸魚川信濃の交流が古代にもあったのですね。

タケミナカタ建御名方神)は諏訪神社上社下社の祭神です。タケノミカタは、強い+ミカタ)、ミカタは宗像(九州の海民)を意味するではないかと解説されています。

頼りになる子供達も歯が立たなかった。さあ、オオクニヌシはどうする?

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諏訪大社 下社 秋宮

"諏訪大社 下社 秋宮 suwa shrine" by puffyjet is licensed under CC BY 2.0


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オオクニヌシの降伏

[テキスト]

そこで更に還つて來てその大国主の命に問われたことには、「あなたの子どもコトシロヌシの神・タケミナカタの神お二方は、天の神の御子の仰せに 背きませんと申しました。あなたの心はどうですか」と問いました。

そこでお答え申しますには、「わたくしの子ども二人の申した通りにわたくしも違いません。この葦原の中心の国は仰せの通り獻上致しましよう。ただわたくしの住所を天の御子の帝位にお登りになる壯大な御殿の通りに、大磐石に柱を太く立て大空に棟木を高くあげてお作り下さるならば、わたくしは所々の隅に隱れておりましよう。またわたくしの子どもの多くの神はコトシロヌシの神を 導きとしてお仕え申しましたなら、背く神はございますまい」と、かように申して出雲の国のタギシの小浜にりつぱな宮殿を造つて、水戸の神の子孫のクシヤタマの神を料理役として御馳走をさし上げた時に、咒言を唱えてクシヤタマの神が 鵜になつて海底に入つて、底の埴土(はなつち)を咋わえ出て澤山の神聖なお皿を作つて、また海草の幹を刈り取つて来て燧臼と燧 杵を作つて、これを擦つて火をつくり出して唱言を申したことは、「今わたくしの作る火は大空高くカムムスビの命の富み榮える新しい宮居の煤の長く垂れ下るように燒き上げ、地の下は底の巖に堅く燒き固まらして、コウゾの長い綱を延ばして釣をする海人(あま)の釣り上げた大きな鱸(すずき)をさらさらと引き寄せあげて、机もたわむまでにりつぱなお料理を獻上致しましよう」と申しました。

かくしてタケミ カヅチの神が天に還つて上つて葦原の中心の國を平定した有樣を申し上げました。

諏訪からもどったタケミ カヅチは、オオクニヌシに「あなたの二人の子供は、アマテラスの御子の言葉に 背きませんと約束した。あなたの心はどうですか」と再び尋ねる。

オオクニヌシは「私の子供二人が申したとおり、葦原の中心の国は献上しましょう」と答えます。

ただし、「アマテラスの御子が住まれる壯大な御殿のように、私の住所(すみか)として、大きな基礎石に太く高い柱を立て空高く棟木を上げて作った宮殿としてもらえるなら、私はその隅にこもって鎮まっていましょう。コトシロヌシの神が先立ちとなってお仕えするなら、私のほかの子供達は背くものは出ないでしょう。」と答えた。

オオクニヌシはついに降伏しました。ただ、自分の処遇について条件をつける。自分が造った国を渡すのだから最後まで粘ります。さすがです。

大きな基礎石に太く高い柱を立て空高く棟木を上げて作った宮殿に住ませろという要求です。この宮殿は、オオクニヌシが根の堅き国から逃げたときスサノヲから祝福された時の言葉と全く同じです。出雲神社で遺構が発見された高層社殿を意味しているんですね。

副読本では、高層宮殿をヤマトに作るように交渉したというの解釈は間違っている、高層宮殿はもともと現在の出雲神社付近に建てられていたとの説を取っています。

そして水戸の神の子孫のクシヤタマの神を料理役として御馳走をさし上げた。

この時、クシヤタマの神が 鵜になつて海底に入って、海底の粘土を持ってきてたくさんの神聖な皿を作りました。また、海草の幹を刈り取ってきて、ひきり(火鑽り)のウスとキネを作って、火をつくり出して申し上げた。

「今わたくしの作る火は大空高くカムムスビの神が住まわれる新しい宮殿のカマドに長く垂れ下る煤(すす)ができるまで、いつまでも火を焚き続け、地下の底の巖(いわお)が堅く燒き固まるように、火を焚き続けましょう。」

「コウゾの長い綱を延ばして釣り上げた大きな鱸(すずき)を引き寄せあげて、机もたわむまでにりつぱなお料理を献上致しましよう」と申しました。

こうして、タケミ カヅチの神が天に帰って上り、葦原の中心の国を平定したことを申し上げました。

オオクニヌシは征服者タケミ カヅチをもてなします。征服された者が支配者をもてなす。

ひきり(火鑽り)のウスとキネについは、webで調べると「火をおこす木製の道具」を意味するようです。

三度目の最強の神によって、地上は天に支配されたのです。

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Godstorm

"Godstorm" by John-Morgan is licensed under CC BY 2.0

古事記における出雲神話

ここまで読んできた古事記では、スサノヲが地上に降りてヤマタノオロチを退治してから、今回のオオクニヌシの降伏までの物語はすべて出雲を舞台した物語です。

副読本には古事記の中で出雲の神々の物語は四割を占めると書かれています。筆者三浦佑之氏は古事記がアマテラスや天皇に向けて作られた物語ではないと主張しています。

この主張には説得力があるように思われます。そうでなければ、ヤマトに征服された出雲の物語をここまで生き生きと、しかも40%のボリュームを割いて書く必要がなかったでしょう。きっと、ヤマトに征服された、各地の縄文人の子孫たちも古事記を読んだのだろうと思います。

Y染色体の解析によると、日本に大陸系の遺伝子をもつ人々が移動し始めたのが紀元前2000年前。弥生時代は紀元前1000年〜300年。そして古事記が編纂されたのは西暦712年。

なぜ1000年以上も前の出雲の伝承を、古事記に書かなければならなかったのか。そして古事記はどんな人たちが読んでいたのか。この謎自体がロマンですね。

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再現された高層本殿の模型(島根県古代出雲歴史博物館展示物)

本ブログで古事記をご紹介する方法について

このブログでは、テキストとして、青空文庫古事記』現代語訳 武田祐吉を使用します。この本は初版が1956年と古いので、副読本として三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』朝日新聞出版を使用します。副読本を使って、現代的な解釈を補ってもらうことにします。

ブログ記事の範囲は、個人的に興味がある、古事記の上巻、神話部分と致します。全文を読むのは、大変な労力となりますので、独断と偏見で、「重要だ」、「面白い」と判断した部分のテキストを引用して、その解釈と感想について記事を書いていくことにします。また、できるだけ、インターネットの特長であるビジュアルな記事としたいと思います。

少しずつ、古事記の勉強を進めていきたいと思います。興味のある方は、ぜひ、一緒にを勉強していきませんか。

三浦佑之著『読み解き古事記 神話編』は、古事記研究の第一人者の書いた本です。これまでの研究成果を踏まえて分かりやすく、現代的に古事記のすべてを解説してくれます。オススメの素晴らしい本です。ぜひ。

読み解き古事記 神話篇 (朝日新書)

読み解き古事記 神話篇 (朝日新書)

 あとがき

楽しかったオオクニヌシとも今回でお別れになりました。

今回の物語もSF小説のようで本当に面白かったですね。登場した、剣の神、飛行船、空中浮遊、自分の手を氷や剣に自由自在に変える神。すばらしい創造性です。

毎回書いていることですが、とても1500年前に書かれた物語だと思えません。

この後は、天皇家による地上支配の神話が展開していきます。本ブログの古事記連載も残り少なくなりました。

今日もこのブログを訪問いただき、ありがとうございました。

古事記の連載はまだまだ続きます。今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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