時の化石

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イヤホンのケーブルについて考えてみた ー リケーブルによる音の変化はあるのか?

どうもShinShaです。今回はイヤホンのケーブルに関する記事です。ちょっと専門的な内容になってしまいますがお許しください。

イヤホンのケーブルを変えると音質は変わるか?または、リケーブルの効果はあるのか? これはWebで論争になっている問題です。今回はイヤホン、ヘッドホンのケーブルに関する個人的な見解を書いてみたいと思います。

この数日、ケーブルの技術、電磁気学の基礎に関係する資料を調べて読みました。結論としては、リケーブルによりわずかな音質の変化はありえる。ケーブルは構造(編み方)がもっとも重要で、材質による音質の向上はないということです。

今回の記事を書きながら驚いたのは、100年以上前から使われているLitz(リッツ)線というケーブルが、すでに高周波の減衰という技術的な問題を解決したことです。コンピュータがない時代のエンジニアたちの優れた直感、創造性には感動しますね。

リケーブルの効果について考えた

僕は戸惑っていた

僕はエンジニアなので、良導体であるケーブルの材質が少々変わっても、イヤホンの音が変わるはずがないと考えていました。ところが、少し前に購入したイヤホン、intime翔DD The Head for MMCXに何本かケーブルを付け変えて音楽を聴いてみたら、少し音質が違うと感じたのです。困ったな。何故そう聞こえるのだろう?

リケーブルの効果については、かねてよりマニアの間で論争となっています。この論争は、たとえば価格.comのクチコミ掲示板にも掲載されています。

bbs.kakaku.com

LINSOUL Euphrosyne Litz6タイプを装着したintime翔DD The Head for MMCX


この論争においても結局、明確な結論は得られていません。いろいろ考えていたらブログ記事をこれ以上書き進めなくなってしまいました。エンジニアの習性というか、悪いくせというか💦 科学的に理解できないと先に進めなくなってしまう。

という訳で、今回の記事を書くにあたって数日に渡ってケーブルの技術、電磁気学の情報を調べました。そしてたどり着いた「仮説」を以下に書くことにしました。専門分野ではないので、あくまでも定性的な話となってしまいますが、興味のある方は是非読んでいただきたいと思います。

ケーブルに発生する表皮効果、近接効果の影響

リケーブルによる音質の変化は基本的にはケーブルの抵抗値の問題です。イヤホンケーブルには複雑な周波数の交流電流が流れます。交流では高い周波数の電流に、渦電流による表皮効果が発生し、導線の表面近くを電流が流れるという性質があります。

このため周波数が高くなると抵抗値が増えます。一般的には導線の直径dが2δ以上である場合には、表皮効果を考慮しなければならないといわれています。

導線として一般的に使用される銅線では表皮深さは、δ= 2.09/√ f (mm) (ここでf: 周波数 kHZ) で計算され、人間が聞こえるとされる高音、周波数20kHzでは δ= 0.47 mm 、周波数10kHZでは δ= 0.67 mmとなります。

表皮効果、表皮深さを表す図 引用:https://detail-infomation.com/skin-effect/


一方、イヤホンのケーブルには柔軟さが求められるため、細い導線を使った撚線(よりせん)または、これを集合させたケーブルが使用されます。細い導線には表皮効果の影響は生じません。しかしケーブルの抵抗値が大きいため、かなりの数の導線を撚り合わせて使用することになります。ところが細い線を撚り合わせると、線の周りの磁界が干渉し合って「近接効果」が発生します。この作用により、一本の導線と同じように表皮効果が発生してしまうのです。

例えば、僕の所有するイヤホンのケーブルは直径 2〜3mm程度、材質は銅です。ということは、近接効果よりイヤホンケーブルには表皮効果が発生してしまいます。つまり細い銅線が集合したケーブルでも、高い周波数の音は低い周波数の音より伝わりにくくなる現象が発生してしまうのです。

導体の近接効果 https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2204/08/news071.html から転載

以上に書いたように、表皮効果、近接効果によって10kHZより高い音が伝わりにくくなり、理論的にケーブルにより音質が変化する可能性がある訳です。

逆にいえば、これらの電磁作用の影響を防止できれば、低域から高域、超高域まで抵抗値が変化しないケーブルが得られるはずです。調べてみると、既にそういう技術が世の中にありました。

Litz(リッツ)線ケーブル

そのケーブルの名称はLitz(リッツ)線といいます。電気通信分野では何MHzという交流電流を長距離送るニーズがあり、表皮効果、近接効果による高周波数の減衰を防ぐ必要がありました。電気通信分野で利用する周波数の高さはオーディオの比ではありませんね。そのような問題があり、約100年前にLitz線ケーブルが考案されたのです。

Litz線製品の適用範囲をみると10kHZ〜5MHZと記載があります。この情報からもやはり可聴周波数範囲20kHZ以下でも、渦電流による影響があることが分かります。Litz線の構造を下に示します。これはすばらしい技術ですね。ケーブルの巻き方、構造がじつに美しい。

Litz線の種類を詳しく見ると、Type1から6へと大きく構造が進化していきます。低音も高音も再生できるフラットな音を再生するには、中央に絶縁体ファイバーがあるTYPE4〜TYPE6の構造が理想的だと思われます。しかし、この構造だとケーブルが太くなってしまいますね。

Litz線の構造 Using Litz Wire in Maxwell 2D and 3D Simulationsから転載


少し前にSONYのモニターイヤホンMDR EX800STを購入しました。この製品に使われているケーブルはOPC(無酸素銅)、Litz線 Φ1.9mmです。SONYの技術者は銅のLitz線ケーブルであれば十分な音質を確保できると考えている筈です。

また、その後に購入したゼンハイザーのヘッドホン HD 600、オーディオテクニカ ATH-M50xのケーブルもOPC(無酸素銅)、Litz線が採用されています。このようにイヤホン、ヘッドホンの名機の多くは、ケーブルとしてLitz線を採用しているのです。

Litz線ケーブルが付属のゼンハイザーHD 600

仮説のまとめ

交流では、電磁作用による表皮効果、近接効果から高い周波数の電流は流れにくくなります。構造が悪く、表皮効果、近接効果の大きいケーブルを使用していれば、高域の音圧が小さくなり相対的に低域の量感が増えて感じます。一方、Litz線のように周波数による抵抗値の変化のない、構造をもつケーブルを使用すれば低域〜高域まで本来の音が聴こえるようになります。

つまり、リケーブルによってケーブルの構造が変わると音質の変化が生じます。しかし、その変化はそれほど大きなものではないと考えられます。

聴覚は脳の官能に関係しています。脳の官能作用により、普段から聴き込んだ音の小さな変化が増幅されて捉えられる。このため、リケーブルによる僅かな変化を、顕著な音質の変化として認識するのではないか。以上が僕の考えた「リケーブルにより音が変わる」仮説です。

そして注目すべきことは、低域から超高域まで抵抗値が変化しないケーブルを作るためには構造が重要であり、材質は通常使用される銅線を用いればよいということです。

市販のケーブルについて考える

Litz線ケーブルでは導線の材質よりケーブルの構造の方が重要です。しかし、現在販売されているケーブルはさまざまな高価の素材を使用し、さも音質が向上するかのような説明がされています。高純度の銀線、銀でメッキした銅線、さらに希土類元素が混合した銅線とか、まるで錬金術

銀メッキってどう考えても酸化防止以外の効果はなさそうだし、また、純銀線は銅より表皮効果が強く、同様に渦電流による影響を受けることになります。高価な材質を使う科学的根拠はほとんどありません。氾濫する怪情報に我々マニアは右往左往している訳です💦

イヤホンやヘッドホンで音を出すのはドライバーです。ケーブルを変えてわずかに抵抗値が変化しても低域〜高域の音圧のバランスがわずかに変わるだけ。高音が伸びるケーブルとか、沈み込む低音が出るケーブル💦なんて科学的にありえませんね。

リケーブルを楽しむのはほどほどにしましょう。音質の変化を楽しみたいなら、イコライザーを使えば良いし、イヤーピースを見直しましょう。その方がよほど合理的なんだな。

今回の記事を書くにあたり下記の情報が参考になりました。
ご参考になれば幸いです。

表皮効果とは?『計算式』や『原理』などを解説! - Electrical Information

電磁気学入門(6)コアレス〜近接効果:DC-DCコンバーター活用講座(49)(1/2 ページ) - EDN Japan

http://www.kozystudio.com/bu2bu2/pcocc/pcocc.pdf

市販のLITZ線ケーブル

入手が容易な市販のケーブルをいくつかご紹介します。
Intime翔DD The Head MMCXを購入して、4種類のケーブルを視聴しました。その中で、一番音が素晴らしかったのは、やはりLitz線Type6の構造のケーブルでした。
ということで、LINSOLの2種のケーブルをオススメします。



amazonには安価なLitzケーブルが少なくなりましたね。amazonで現在売っているLitzケーブル製品のリンクを貼りました。
興味ある方は下のリンク↓ をクリックして、ご自分で探してみて下さい。

https://amzn.to/4ioXGON

おわりに

今回、イヤホンケーブルについてWebで情報を調べた訳ですが、驚いたのはLitz線ケーブルが100年も前から使われていることです。僕が読んだ記事には100年前にLitz線の使用によりラジオ放送が可能になったと書いてありました。改めてこの技術の素晴らしさに感動しました。

電気通信分野では何MHzという交流電流を長距離送る訳ですから、渦電流による損失は今回のイヤホンケーブル、オーディオケーブルどころではありません。もっと過酷な条件で実用化されているのです。

Litz線の技術は、すでに基本特許も切れて世界中どこでも使われています。また最近でも、電気自動車、ハイテク機器にも応用されています。すでに発明者の名前も分からないのですが、本当に素晴らしい発明だと思います。

こういう技術の開発を自分でもしてみたい、エンジニアの僕は、記事を書きながら強い憧れを抱いたのでした。
ShinSha