時の化石

ブログ「時の化石」は、アート、ミュージック、ライフハックなどを中心に数々の楽しい話題を提供します。

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

斎藤幸平 「ゼロからの『資本論』」を読む

どうもShinShaです。
年明けから斉藤幸平さんの著作を読み始めました。
斎藤幸平さんといえば「人新世の「資本論」」は大ベストセラーとなりましたね。

僕は社会学や経済学の素養がないので、先ずこの本を読むことにしました。
筆者が現代の日本の現状を引用して、マルクスの理論を説明してくれるのでとても分かりやすいです。
僕は資本論の本を読むのは初めてですが共感するところが沢山あります。

マルクスプロイセン王国時代のドイツの哲学者、経済学者、革命家です。
19世紀に書かれた資本論が、現在の世界の状況をこれほど的確に予見しているとは驚きでした。
筆者は本書の中で、現在の日本が直面している問題の原因についても説明をしています。
これは今読むべき重要な本だと感じました。

斎藤幸平 「ゼロからの『資本論』」

還暦を過ぎ、僕は益々この国の将来が心配になっています。
孫の世代の日本はどうなってしまうのだろう?
何十年も上がらない労働者の給与、止まらない少子化、凋落し続ける経済。

現在の状態を見れば、日本という国は新しい産業が生まれ育つ機会を奪ってきたといわざるを得ないですね。
そして、学力が高く勤勉な国民が活躍できる場がなくなっている。
それどころか若い人達の生活基盤を脅かし、人口の減少にまで及んでいる。

何でこんなことになったのか。
僕らが社会に出た頃はこんな状況じゃなかった。
どこに原因があるのか知りたいと考えていました。

踊り出すテーブル

資本論の最初にマルクスは「資本主義的生産様式が支配的な社会の富は”商品の巨大な集まり”として現れる」と書いています。
社会の富とは金銭や有価証券、不動産など金額で表される財産以外に、自然の豊かさ、緑豊かな森、市民が憩う公園、図書館、文化、芸術なども含んだ概念です。
資本主義の社会では、ありとあらゆるものを商品にしようとする動きが生じます。

マルクスが生きていた時代のドイツでは、人々が燃料として使っていた枯れ枝を地主が私有財産として囲い込み代金を取るようになった。
そして最近問題になっている神宮の森の開発も同じですね。

全国から献木され100年以上育んできた神宮の森という社会の富が、開発され商業地として売られる。
資本主義は社会の富である大切な自然を解体して、独占し商品として売ろうとする。
現代の日本でもマルクスの言葉どおりのことが起こっているんだな。

書店に並ぶ斎藤氏の著書 高田馬場芳林堂書店店頭

資本主義では物を作る目的が「人間の欲求を満たす」ことから「資本を増やす」ことに変化します。
商品を生産する目的は必要なものを作るから、売れそうなものを作ることに変わっていく。
そして商品は人間の労働から作られている。

木材は労働によってテーブルに形を変えます。
テーブルは手で触れることができるし、食事をしたり本を読んだり使うことができる。
しかし、商品として売ろうとした途端、人間の感性で捉えられない「価値」をもったモノに化ける。
テーブルは市場で他の商品と駆け引きを始め、人間をダンスに巻き込んで狂わせていく。

人々は売れそうな商品をひたすら作り続けることになる。
日本では1年間で供給される約29億着の衣服のうち約15億着が売れ残り、その多くが新品のまま廃棄されている。
商品を作る労働者は売れそうな商品を作るため安い賃金で雇用され、製造工程の中に組み込まれ、機械やシステムの命ずるまま働くことになる。

資本主義らしい社会が出現したのは割と最近のことですが、マルクスは180年も先の未来を見通していたのです。

"Karl Marx | Карл Маркс, 1875" by klimbims is licensed under CC BY-SA 2.0.

悪化する労働環境

マルクスは資本を”G-W-G”の式で表される運動だと考えていました。
ここでGは貨幣、Wは商品を意味しています。
つまり、資本とは金儲けの運動、金儲けの運動を連続して続けるのが資本主義だと考えていた訳です。

労働力は本来は社会の富なのですが、資本主義社会では労働力は商品の中に閉じ込められます。
資本家は”G-W-G”によって、売れそうな商品を作り続けなければならい。
労働力はその商品中に取り込まれるのです。

資本主義社会において、労働者は二重の意味で自由だとマルクスは書いています。
労働者は奴隷のように働かせられるわけではない。
働く企業を選んだり企業を辞める自由は持っている。
しかし、一旦、企業に入れば、その指示通り働かなければならない。

"Child Labor: Carolina cotton mill, 1908." by Kelly Short6 is marked with Public Domain Mark 1.0.

さらに、労働者は生産手段からも自由になっており、自らの力で商品を作ることはできず働かなければ生きていけなくなっている。
限られた人間しか、自分の一人で金を儲けることはできなくなっているのです。

この本を読んでいて衝撃を感じたのは下の図です。
過去10年以上、日本の企業の売り上げは伸びていない。
ところが利益は増加しているのです。

生産効率はいくらか上がっているだろう。
しかし、原材料、エネルギーコストも上がっている筈。
どうみても日本の企業は労働コスト、外注コストのカットにより利益を生み出しているとしか見えないですね。

いまの日本の本質的な問題はこの図に表れていますね。
国内市場の飽和、海外企業のキャッチアップにより商品が売れなくなった。
それなのに労働コスト、下請けコストをカットし利益を絞り出してきた。

日本の企業はタコが自分の足を食うみたいに未来を食ってしまった。
非正規労働者の雇用、賃金の削減、長時間労働の強制。
グラフを見れば見るほど怒りを感じます。

斎藤幸平 「ゼロからの『資本論』」p.82から転載

イノーベーションがクソどうでもよい仕事を生む

資本主義は膨大な富をもたらしたように見えるけど、私たちの生活には余裕がなくなってきている。
すでに180年前にマルクスはこの状態を予見し「労働の阻害」と呼びました。
労働はもっと魅力的で、人生はもっと豊かであるべきではないか?
マルクスの問いは現代にも当てはまると、筆者は書いています。

1年ほど前にAmazon Primeで”The Food”というアメリカのドキュメンタリーを見ました。
アメリカの食品業界の歴史は正に生産効率向上の物語でした。
商品の製造に最初に生産ラインを導入したのはフォードじゃなくて、ハインツなんですね。

ムービーを見て驚きました。
確かトマトケチャップの工場が最初だった。
ハインツはそれで飛躍的に生産効率を上げることができたのです。

マクドナルドが行った革命はハンバーガーを作るキッチンが有名です。
しかし、それより大きいのは客に商品を取りに来てもらう方式を採用したことです。
それ以前は、ウエイトレスが車まで行って注文を取っていたのです。

ウエイトレスと客がおしゃべりをするので、一向に商品を売る効率が上がらなかった。
マクドナルド兄弟はそこに目を付けたのです。

"LC-DIG-nclc-01379 Child Labor Industrial" by Children's Bureau Centennial is licensed under CC BY 2.0.

さて、資本主義では職人の組合”ギルド”を徹底的に解体し、生産工程を細分化し労働者に分業させる方法で効率を上げてきました。
これまで職人たちが独自の方法でやってきた工程を画一的な単純作業に分解したのです。
さらに労働者への支配を強化しました。

これはハインツやマクドナルドが導入した生産方式そのものですね。
労働者は自由な裁量を奪われ、仕事は苦痛となりました。
しかし、誰でもできる単純作業なので、仕事を失いたくなければ黙々とノルマをこなすしかない。
書いていて何だか絶望的な気持ちになってきますね。

イギリスの経済学者ケインズは1930年代に資本主義が発展していけば、労働時間は短くなると予測しました。
技術革新が進み、生産効率は大きく向上したのに、一部の国以外では一向に労働時間は短くなりません。
それは資本主義がブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)を大量に生み出しているからだと筆者は書いています。
生産効率が高くなったから、こうした仕事を作らないとエリートたちが週40時間働く環境を維持できないのだと筆者は書いています。

無駄な会議、書類作成、マナー研修など、やっている本人でさえ意味のない仕事だと感じる高給のエリートのブルシット・ジョブ。
一方で社会になくてはならないエッセンシャル・ワーカーはひどい労働条件を強いられている。
コロナの期間に、この社会の矛盾が大きくクローズアップされました。

"Germany-5364B - Karl Marx House" by archer10 (Dennis) is licensed under CC BY-SA 2.0.

斎藤幸平氏著作のamazon 商品リンク

あとがき

これは素晴らしい本ですね。
180年も前にマルクスが資本主義の未来を看過していたことに驚きました。
マルクス資本論を書き始めたのは、日本では未だ江戸時代、安政の大獄の頃ですよ。

現在起きている資本主義の問題に対して、マルクス、そして筆者はどのような解決策を考えているのでしょうか。
まさか、皆んな同じようなアパートに住み、人民服を着て、社会に必要なものだけを計画的に生産するということはないですよね。
斉藤氏はコミュニズムソ連とは本質的に違うと書いています。

どんな解決策があるのかとても興味を感じています。
それは次回の記事に書きたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。

ShinSha