どうも、ShinShaです。今回は斎藤幸平の「ゼロからの『資本論』」に関する2回目の記事です。前回の記事では、資本主義の下ではあらゆるものが「商品化」され、社会の重要な富(=コモン)が失われ、労働環境が悪化するという内容でした。
今回の記事は、マルクスや筆者がどのような未来を描いているかがテーマです。残念ながら、マルクスは将来の社会像を具体的に描いていませんでした。しかし、膨大な量の研究ノートの中から彼が考えていた社会の姿が浮かび上がってきます。
それはソ連や中国のように国家が力を持った社会主義ではなく、人々のアソシエーション(= 連帯)でコモンを管理するという考え方でした。もし、この日本で大学や医療費が無料になったら、僕らの生活は大きく変わるはずです。
斎藤幸平「ゼロからの『資本論』」を読む
グッバイ、レーニン
「ソ連が崩壊したからマルクスは間違っていた」という言葉に対して、筆者はマルクスが提唱したコミュニズムとソ連は本質的に異なると説明しています。筆者はかつてNHKの番組でチェコの経済学者と対談した際、この説明を何度も試みたが理解されなかったと述べています。僕自身もかつて同じ内容の教育を受けたことがあります。マルクスの提唱したコミュニズムはどう違うのか?ここは重要なポイントなのでよく理解したいですね。
これまでに現存した社会主義国家は、資本家の代わりに党・官僚が経済を牛耳る「国家資本主義」だと筆者は説明しています。マルクスは国有化=社会主義の問題点に早くから気づいていたとされています。社会主義といえば北朝鮮、ソ連、中国などが思い浮かびます。確かにマルクスのイメージは悪くなる訳だ💦
確かに中国やかつてのソ連では、企業や大規模な農園などの生産手段を国有化する形をとりましたが結局は一党独裁国にすぎないのです。資本主義と同様に労働者は虐げられ自由を奪われる。労働から生まれた富は党や官僚が独占してしまう。現在でも中国では人々がさまざまな面で自由を制約され、マルクスが提唱した解放された労働者の国とは程遠い状態と言えます。
この本には、深圳の労働者と連携しようとした北京大学のマルクス研究サークルの学生が拘束・逮捕された話が書いてありました。中国ではマルクスは危険視される思想のようです💦 僕はこれまで仕事で10回中国を訪問しましたが、これは社会主義じゃない、資本主義の皮を被った独裁国家と感じました。
筆者は、過去のソ連や中国で発生した問題は民主主義の不足が原因だと指摘しています。僕はこの部分に少し驚きを感じました。そして、筆者は民主主義の中でマルクスの描いたコミュニズムを実現しようと考えているのだと気づきました。よく考えれば当たり前のことなのですが、自分の考えもマルクスに対する既成概念に毒されているのだなと感じました。
コミュニズムが不可能だって誰が言った?
それではマルクスはどのような社会を理想だと考えていたか?彼の考えていたコミュニズムとはどういうものなのか?それを知りたいですね。
残念ながらマルクスは将来の社会像を具体的に描いていません。それは「資本論」が未完だからです。筆者もこれには落胆したと書いています。しかしながら、マルクスが残した大量の研究ノートの中からそのヒントが浮かんできます。マルクスは労働者のアソシエーション(連帯)が重要だと考えていたようです。
マルクスは資本主義以前の古い共同体を発展させた形を理想のひとつだと考えていました。そして、その姿を1871年にわずか2ヶ月だけ存在したパリ・コミューンに見ていました。その共同体は人々のアソシエーションがコモン(=社会の富)を持続可能な形で管理し、また壊されたコモンを再生します。これがマルクスが考えたコミュニズムの意味だと、筆者は書いています。
ここでいうコモン(=社会の富)は、金銭や有価証券、不動産など金額で表される財産以外に、自然の豊かさ、緑豊かな森、市民が憩う公園、図書館、文化、芸術なども含んだ概念です。
本書の中で感銘を受けたのはドイツの話です。ドイツでは1980年代から大学の学費は無料です。学生は公共交通機関を格安で利用でき、美術館の入場料も安く、ベルリンフィルのコンサートはなんと2000円程度。また、ドイツは医療費も原則無料です。もし、日本がそうだったら、僕らの働き方は変わっただろうなぁ。そう思いました。ある飲み会でこの話をしたら、知人も僕と同じようなことを言いました。
筆者によると、失業保険、年金、公共図書館などはもともと労働組合、協同組合、労働者政党の相互扶助の仕組みから生まれたものだそうです。労働者のアソシエーションがそのような仕組みを作ってきたわけです。
市民革命で自由を勝ち取ってきたヨーロッパは日本とは違いますね。僕は日本にはまともな労働組合がないから、企業の思うままに、何十年も給与上昇が抑えられてきたのだと考えます。「企業に寄り添う」とかいう、連合の芳野氏の話を聞くと頭がどうかしてるとしか思えません。欧米の社会で働く人はプロフェッショナルの意識が強く、古くから職種別の労働組合が発達しています。日本人はもっとアソシエートしなければならないのだと考えます。
アソシエーションの力で教育、医療、移動手段を無償化できれば、これまでのようにお金を手に入れる必要がなくなってきます。さらに、食料、衣服、住居が相互扶助、贈与などの形で安く手に入れられるようになれば。お金の必要がない「脱商品化」されたコモンの領域を増やしていく、これがマルクスが考えたコミュニズムなのです。
さらに、資本や国家の代わりにアソシエーションが生産手段を手に入れ、それが世界中のアソシエーションと連携するようになれば、筆者のいうように、あらゆるものが「商品化」することで生じる労働者環境の悪化、地球環境汚染、少子化など、資本主義の多くの問題が解決できるかもしれません。
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おわりに
マルクスはユートピアの思想家だと斎藤さんは書いています。この本を読んで、僕も確かにユートピアの話かなと感じました。ヨーロッパ社会の歴史と日本の現状が違いすぎて、一度読んだだけではマルクスの思想にリアリティを感じるのは難しいのです。これは僕がこういう学問と無縁で生きていきたからかもしれませんが。
しかし、市民・労働者のアソシエーションの力で1980年から大学、医療費の無償化を果たしたドイツの話を読むと、にわかにマルクスの思想が現実味を帯びてきます。もし、日本の大学が無料だったら、間違いなく僕らの働き方は変わったと思います。今の日本の社会も変わっていたはずです。労働者・市民が強く連帯すればそういうことが実現できるのです。
資本主義の様々な問題があふれている現代では、確かにマルクスの「資本論」は重要なテキストになるのだと感じました。内容は難しいですが、もう少し深く「資本論」について理解したいと思いました。
昨年末から自民党議員の裏金が大きな問題となり嫌気がさしています。無能で私欲を肥やすばかりの政治家にこの国を任せるのはダメだと痛感しています。日本人は戦後教育のおかげで政治に無関心で、大っぴらに政治を批判することを嫌います。一人一人がもっと政治に関心をもち問題があれば怒り、行動しなければならないのだと思います。
国政はなかなか変わっていきませんが、東京都の西部では規制政党にノーをつきつける住民運動の波が起こってきています。最近は少し未来に対する希望を感じるようになりました。やはりマルクスのいうとおり、市民のアソシエーションが未来を変える鍵なのだ。
ShinSha