どうも、ShinShaです。最近よく本を読んでいます。つい先日まで、遅まきながらカズオ・イシグロ『私を離さないで』を読んでいました。そして、いまは2日前に書店で見つけた伊集院さんのこの本を読んでいます。
伊集院さんのシンプルな文章に、なぜ心を動かされるのだろう。彼の言葉はなぜ心にすっと流れてくるのだろう。素晴らしい本です。地下鉄の中で涙がこみ上げてくるのを何度もこらえながら読み続けました。
本書について
この本は2000万人が泣いたといわれる、伊集院さんのエッセイ集を文庫化した本です。追悼本として後輩作家の追悼文も掲載されています。
追悼・伊集院静。2000万人が泣いた伝説のエッセイ、待望の文庫化! めぐる季節とともに思い返す、家族、友、仕事、人生――。誰よりも多くの出会いと別れを経験した著者だから語れる、優しさに満ちた魂のメッセージ。JR東日本の車内誌「トランヴェール」の歴代人気No.1連載「車窓に揺れる記憶」に加え、3.11後のこの国の風景を語った特別エッセイ、角田光代、池井戸潤、中島京子、朝井まかて、塩田武士、加藤シゲアキの6人による追悼エッセイを特別収録。
230万部突破の国民的ベストセラー「大人の流儀」シリーズに連なる、小説家・伊集院静の魅力満載。悩み、迷い、立ち尽くす――それでも前へ進むための、すべての大人たちへの魂のメッセージ!
ベストセラー「大人の流儀」から抜粋したエッセイが掲載されています。190ページの薄い本ですが、感動的な言葉が詰まっています。何度読んでも伊集院さんの文章は素晴らしいな。
それでも前に進む
伊集院さんが亡くなられた後、いつかは読もうと買ってあった『白秋』、短編集『受け月』などを読みました。また、彼の著作を何冊か買い求めました。まだ読んでいない本をこれからゆっくり読んで行こうと思います。
本の帯には伊集院さんが万年筆で書いたメッセージが載っていました。
「人は心の温度が高まらなければ泣けないものだ。あなたが忘れ、失いかけている温度をこめて書いた -伊集院静」。
これが彼の文章の秘密なのかな。伊集院さんは読者の悩みや哀しみに寄り添うように、熱量をこめて心から文を綴っているのだ。だから彼の文章は、すっと流れてきて心を動かす。地下鉄の中で涙がこみ上げてくるのを何度もこらえながら読み続けました。
父、母に対する愛情、お世話になった恩師・先輩を尊敬する心、誠実な仕事への敬意。伊集院さんの細やかな心遣い、丁寧な生き方が伝わってくる。若くして亡くなった弟さんを書いたエッセイには何度読んでも涙を誘われます。
二百ページにも満たない本だけど、ここには伊集院 静ワールドが凝縮されている。本の中から、心に残った部分を少し引用します。言葉が一つひとつ胸に響いてくる。
「哀しみは突然やってくる」
死をもっていろんなことを教えられた。弟にも、妻に対してもその思いがある。人間は一番辛いことでしか、変わったり、何かを得たりはできないんじゃないだろうか。
私がいいい続けている、若いうちに辛い思い、苦しい経験をした方がいい、それが宝になる、ということにはそんな思いがある。自分の人生に置き換えたとき、哀しみは生きていくことのすぐ裏側にあった。
「老いについて」
もうひとつ大事なことは、常に少し勾配のある道を選ぶということだ。二十歳には二十歳の、また四十歳、六十歳それぞれ角度の違った道がある。坂道だからきついこともある。
どうやって歩くかというと、やっぱり坂の上の雲を見上げることだと思う。人生の目標というより、生きることの証、標(しるべ)のようなものが必ずみつかる。下を向いちゃいけない。見上げないとだめだ
作家たちの追悼文
この本には、6人の作家の追悼エッセイが載っています。この追悼文が伊集院さんの人柄を偲ぶことができて、とても素晴らしいのです。彼はこれからの人、後輩たちをずっと励まし応援してきた。売れっ子作家の池井戸潤氏までが次のような追悼文を書いている。
もっと長く生きて励ましていただきたかった。「おお、池井戸。がんばってるな。この調子で書き続けろ」伊集院さんの、あの口調、あの笑顔はつい昨日のことのようにはっきりと思い出すことができる。
だが、その眼差しに接することはもう、二度とない。
角田光代氏は「彼もきっと泣いている」というタイトルのエッセイで、伊集院さんの人柄について素晴らしい文を書いています。「彼」とはたまたま乗り合わせたタクシーの運転手のことだった。
一度、いきは伊集院さんを乗せたタクシーが、帰りに私を乗せたことがあった。運転手さんは、目的地に着くまで、「いきは伊集院先生だったんですよ、すてきなかたでね。帰りも伊集院先生だと思っていたのになあ。おもしろかったんですよ」と、十回はぼやいた。
私はその気持ちが痛いほどわかったので、ただひたすら「私でごめん」と思っていた。あの運転手さんも、伊集院さんの早すぎる訃報に衝撃を受け、きっとしずかに泣いているはずだ。
書かれる小説も、人柄も大きいながらこまやかな人だった。あの大きな体格は、そのまま大きなやさしさをあらわしていた。...選考会だって、伊集院さんがいないと困るのだ。とてもかなしい。
おわりに
昨年十一月に突然亡くなられた伊集院さんの死をまだ受け止められないでいます。そういう読者が、他にもたくさんいるのではないだろうか。
伊集院さんのお話を時々ラジオで聞くのは本当に楽しかった。でもその機会も二度とやってこない。文化放送から彼の出演したプログラムをまとめてCDを出してくれないだろうか。
この本のために選ばれたエッセイの最後に、伊集院さんが若い人に向けて書いた言葉が心に残りました。
吹きさらしの道を歩けば、強い風にあたるし、嵐もくる。大雪にも襲われる。
いちいち揺さぶられるな。すべては自分の成長につながる。前を向いて、進め。
理不尽や不条理があって当たり前の世の中を、いつか、そうでない世の中にするために、私たちは生きている。
良い文章だなぁ。六十を過ぎても僕はまだまだだめだな。
また伊集院さんに背筋を正された気がしました。
ShinSha