時の化石

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大人の科学(7) なぜウィルスの変異はおきるのか

どーもShinShaです。
今回の大人の科学はウィルスの変異がテーマです。
新型コロナウィルスの変異についても勉強しましょう。

RNA情報のミスコピーとシャフルにより変異が起きます。
敵は数撃ちゃ当たる方式で繰り返し攻めてくる。

たった1文字の変異が世界中に感染を引き起こしたとは...
ちょっと難しいテーマですが、大丈夫、理解できますよ!

オリンピック、どうも観客も入れる様子ですね。
世界のウィルス祭典にならなきゃいいですが...

ウイルス変異のしくみ

そもそも変異はどうして起こるのか

新型コロナウィルスのゲノムサイズは3万塩基。
我々が読む文庫本の文字数が約10万文字です。
ウイルスが宿主の細胞に入り込み、増殖する度に、ウイルスのRNA情報が転写(コピー)されます。
毎回、文庫本の1/4の情報がコピーされるのです。
この時、コピーミスが発生し、それがウィルスの変異となるのです。

参考図書から引用します。

さて、このRNAポリメラーゼによるRNA複製の際に、「複製エラー」が生じると考えられている。
RNAポリメラーゼによる複製時の〝ミスコピー〟のことだ。

世界的なピアニストであっても、ミスタッチをすることはある。
どんなに優秀な歌手であっても、ときどき歌詞の一部を間違えることはある。
RNAポリメラーゼといえども完璧ではない。

そもそも生物のシステムに「完璧」などというものは存在せず、そこにあるのはただ、より完璧に近づいた形をした〝何か〟に過ぎない。
引用:武村政春. 「新しいウイルス入門」

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Novel Coronavirus SARS-CoV-2
"Novel Coronavirus SARS-CoV-2" by NIAID is licensed under CC BY 2.0


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RNAウィルスの変異は起こりやすい

引き続き参考図書から引用です。
RNA、DNAのコピーに関する情報です。

RNAポリメラーゼやDNAポリメラーゼは私たち生物ももっているから、それらのミスコピーは私たちの細胞の中でも起こる可能性はある。

ただ私たちの細胞の場合、RNAポリメラーゼがはたらくのは複製過程ではなく「転写」過程だから、そのミスコピーが後代にまで受け継がれることはないし、複製過程ではたらくDNAポリメラーゼの場合でも、たとえミスコピーをしたとしても、それを校正するメカニズムがあるので、ミスコピーのほとんどは修復される。

だがインフルエンザウイルスの場合、RNAポリメラーゼが複製を行うがゆえに、ミスコピーが起こっても、それを修復するためのメカニズムが存在しないため、すぐさま「突然変異」として固定されてしまうのである。
引用:武村政春. 「新しいウイルス入門」

下の図はDNAの複製、RNAの転写のイメージ図です。

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図 RNAポリメラーゼにはミスを修復するしくみはない 
引用:武村政春. 「新しいウイルス入門」

RNAポリメラーゼによる情報のコピーでは、ミスをチェックするしくみがない。
だからRNAウィルスは比較的簡単に変異をしていく。

一方、驚きなのはDNAポリメラーゼではミスコピーを修復するしくみを持っていることです。
DNAは世代を超えて、長い時間受け継がれていく生命で最も重要な情報です。
このDNAの複製ではミスを見逃さずに修復するメカニズムを生物はもっているのです。 これは感動的ですね。

ある文献ではウィルスの1塩基あたりの変異率はヒトのおよそ1万倍変異しやすいとの記載がありました。
しかもウィルスは世代交代が早いですからね...
じっくり考えると恐ろしくなる💦

RNA情報の交換

ウィルスが変異するもう一つのしくみとしてRNA情報の交換による変異があります。
下の図は、RNA情報の交換による鳥インフルエンザの変異について解説しています。

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RNA情報の交換による鳥インフルエンザの変異
引用:http://sogo-medical-guide.jp/knowledge.php?entryid=2

ブタに、トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスが同時に感染すると、一つの細胞の中に二種類のインフルエンザウイルスのRNAがそれぞれ放出されるという事態が引き起こされる。
インフルエンザウイルスの異なるRNAが、同じ一つ屋根(細胞)の下で添い寝をするというわけだ。

すると、その細胞の中で、RNAの間で〝交換〟が生じ、新しい組み合わせをもった、新しいインフルエンザウイルスが生まれるのである。
武村政春. 新しいウイルス入門 単なる病原体でなく生物進化の立役者? 」

ミスコピーに加えて、情報の混乱による変異が起こるのです。
獣と塩基情報を交換するなんて、ひどい目に合いそうな気がしますね💦

新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)など、最近問題になっているヒトの感染症ウイルスはすべてRNAウイルスです。
もとは野生動物を宿主としていたウィルスが、何かのきっかけでヒトにも感染できるように変異したのです。

RNAウィルスではランダムに突然変異は起きますが、変異の回数が多いため、たまたま出会ったヒトという新しい宿主に感染する確率が高くなるのです。

RNAによるタンパク質の合成

ここで少し前のRNAによるタンパク質合成について、復習しましょう。
当然ながら、新型コロナウィルスの変異に関係がありますからね。
詳細はこちらの記事を参照ください。

www.fossiloftime.com

生物がタンパク質の合成に使うのは、およそ20種類のアミノ酸です。
アミノ酸をいくつ、どのように並べるかで、できるタンパク質が変わります。
その情報がRNAにコピーされ、リボゾームに伝えられます。

生物はRNAの4種の文字A、U、G、Cを3文字組み合わせて、アミノ酸を指定してします。
AAA、AAU、AAD、AAG・・・などの組み合わせは (4 x 4 x 4 = 64)とおり あります。
RNAの文字列が変わると、タンパク質を作るために、つながるアミノ酸の種類が変わるのです。 この文字列をコドンといいます。

下の図はリボゾーム(rebosome)で、RNAの情報からアミノ酸が選択され、ペプチド結合でタンパク質が合成されるしくみを描いた図です。

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Peptide syn
"File:Peptide syn.png" by Boumphreyfr is licensed under CC BY-SA 3.0

下にコドンの一覧表を掲載しました。
複数の文字列が同じアミノ酸をしていている部分もあります。
また、開始、終止などの命令情報も含まれています。
まるで、コンピュータ言語のようですね。
これがもともとDNAに書かれていた遺伝情報なのです。

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コドン表
引用:東京薬科大学webより https://www.toyaku.ac.jp/lifescience/departments/applife/knowledge/article-010.html

このコドン表はすべての生物で共通なんですね。 ヒトと植物、大腸菌などは、姿形は異なり、生き方や生きる環境が大きく異なっています。

次に逆コドン表を掲載します。

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逆コドン表 引用wikipedia

新型コロナウィルスの変異

Nature ダイジェストweb記事から、新型コロナウィルスの変異に関する情報を引用します。

2020年3月、Montefioriはロスアラモス国立研究所(LANL;米国ニューメキシコ州)の計算生物学者Bette Korberに連絡を取った。
彼女は既に、世界中に広がりつつあるSARS-CoV-2の数千種類の塩基配列の中から「ウイルスの性質を変えた可能性のある変異」を探す作業に着手していた。

1つの変異がKorberの目に留まった。
その変異は、ウイルス粒子が細胞内に侵入するのを助ける「スパイクタンパク質」をコードする遺伝子に起きていた。
2万9903塩基からなるウイルスRNAの遺伝暗号中の1つの塩基がコピーミスにより変化した結果、スパイクタンパク質の614番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(生化学的略号ではD)がグリシン(同じくG)に置き換わる。ウイルス学者たちはこれをD614G変異と呼んだ。

そして4月、KorberとMontefioriらは、bioRxivサーバーに投稿した論文において「D614Gの頻度が驚くべきペースで増加している」と警告した。
D614Gは欧州のSARS-CoV-2の系統の中でみるみるうちに優勢となり、米国をはじめカナダやオーストラリアにも定着していた。
引用:Nature ダイジェスト(一部省略) https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v17/n12/コロナウイルスの変異を理解する/105638

スパイクタンパクは、ウィルスがヒトの細胞に侵入するための重要な役目を果たしています。 この変化が感染しやすさに、直接影響してくるのです。 下の図が変異によるスパイクタンパク質の変化を示したものです。

【 A → U 】 わずか1文字(塩基)によるウィルス変異が、米国、欧州での爆発的な感染拡大につながったのです。

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"D614G" スパイクタンパク質変異
引用:https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v17/n12/コロナウイルスの変異を理解する/105638

イギリスで見つかった変異ウイルスは、スパイクたんぱく質に「N501Y」と呼ばれる変異があることが分かっています。
コドン表をみると、「スパイクたんぱく質」の501番目の塩基GがUに変わったため、アスパラギン”GAU”がチロシン”UAU”に変化した変異であることがわかります。

最近感染拡大が増えているインド株では、「E484Q」と呼ばれる変異があることが分かっています。
コドン表をみると、「スパイクたんぱく質」の484番目の塩基GがCに変わったため、グルタミン酸”GAA”がチロシン”グルタミン”に変化した変異であることがわかります。
また、このウィルスは同時に「L452R」の変異をもつことも知られています。

実際のゲノム解析、変異のデータは下のリンクのように解析されています。
よろしければ参照ください。
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/covid19-38-fig-v2.png

このように起こるウィルスの変異は、免疫をすり抜ける脅威を与えるものです。
世界中の地域で、SARS-CoV-2の変異株を撃退しないと、今回の感染は収まることはありません。

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SARS-CoV-2 Spike Protein
National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons

参考図書

今回の記事は下記の本を参考にして書きました。
いずれもウィルスについてやさしく解説する良書です。
お時間がありましら、ぜひ読んでみてください。

あとがき

今回の記事で、大まかにウィルスの変異のしくみや新型コロナウィルス の変異について、理解いただけたでしょうか。

最近、ワクチンの接種が進んだ英国で、インド株による感染者が増加しロックダウン解除の延期が決定されました。
何しろ敵は世界中でミスコピーと情報シャッフルに変異を「数撃ちゃ当る方式」で延々繰り返し攻めてきます。
なかなか手強いです。
世界中から人が集まるオリンピックには、大きなリスクがあるといえます

ろくな入国検疫も新型コロナ対策もできなかった我が国に、この脅威を防ぐことは難しいでしょう。
オリンピックの後がとても心配です。

今日も最後までブログを読んでいただき、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

ShinSha

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